「ロータリー語 I serve」
2630地区 PDG 服部芳樹(岐阜)

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2630地区 PDG 服部芳樹

 この5月、講演の資料をまとめて「I serve」を出版したところ、たくさんの方からコメントを頂戴しました。この本のなかには広場で書かせて頂いたものも収載しました。こうした機会を与えられたからこそできた本と感謝しています。

 その中で田中正規PDGから ” I serveは何時頃誰が言い出したものか? 引用文献は? ” というご質問を戴きました。
 この言葉の歴史については、本田博巳PDGの月信Vol.7に記載されていますが、深く研究されていて感服します。私も、ここで学ばせて頂いた以上の知識はありません。
 また、刀根荘兵衛DGNにお願いして調べて頂いたところ、1920年代の手続要覧、ポール・ハリスのスピーチまで広範囲に検索されましたが、I serve という言葉は見当たらなかったとのことでした。しかし、ロータリー文庫の索引から、増田房二PDG、羽根 實PDGのお書きになったものを見つけて下さいました。
 増田PDGは、「アイ・サーブとウイ・サーブ」の表題のもと、「ロータリーにおいては、アイ・サーブこそ本質的なものでありますが、アイ・サーブだからウイ・サーブはやるべきでないとか・・そんな ○×的な思考をする必要はない・・。」と結論しておられます。

 本田PDGも、「二元論を克服しよう」と言っておいでですが、全く同感です。
 寄付が少なくて都合悪いときや、汗を流す集団奉仕に参加したくないときなどに、「ロータリーはI serve だよ。」と言うと、なんとなく相手が引っ込んでしまうので、口にして憚るところなく、一般にはその程度の使われ方にしか考えられていないのが、実情ではないでしょうか。それは、I serve が、「We serveと相対する意味の言葉」、すなわち「一人でする奉仕活動と皆で揃ってする奉仕活動」くらいの薄い意味付けの程度にしか理解されていない、ということではないでしょうか。不毛の論議が起っても、さもありなんと思います。

 いつもここで思い出すのは、蚤の議論の喩話です。
 ある日、ネコの頭に住んでいる蚤と、腹に住んでいる蚤が、頚のところで出会いました。「ネコは、丸い玉のようなものだ。」頭に住んでいる蚤が言いだしました。腹に住んでいる蚤が言い返して、「いや、違う。ネコは、野原のようなものだ。」
 お互いに譲らず、激しい議論は果てしなく続いたそうです。
 本田PDGも、刀根DGNも、I serve という言葉は、「職業奉仕の大切さを解くために、後世、日本的解釈が付与されたのであろう。」とお考えのように思うのですが、私もこの説に賛成です。ただここで、(職業奉仕理念=I serve)であることは間違いのない事実ですが、(I serve=職業奉仕)であると理解すると、蚤の議論に陥ってしまうのではないでしょうか。

 人に、心があり、それを容れる姿があり、それを現す行動があるように、職業奉仕にもその理念(心)があり、地区やクラブに職業奉仕委員会(姿)があり、ロータリアンに対する訓練と一般社会への普及を図るプロジェクト(行動)があります。訓練や普及は、集団として実行せざるを得ません。ただ、このような意味の集団的奉仕活動が、本当の意味の「We serveの理念」なのでしょうか? I serve が未完結的であるのに比し、We serve は完結的な奉仕活動のように考えられてならないのですが?
 「I serve というネコの全体像のなかには、個人奉仕の理念もあれば、集団的訓練や普及活動もある」と解釈できないでしょうか。

 I serve を小著の題名にした根拠は、Harold Thomasの名著ロータリーモザイクに収録されたChes Perry事務総長の言葉です。
 「ロータリーの偉大なる機能は、各個人を個人として、また広く社会一般の一員として、また各個人個人がそれぞれ所属する他の特別の組織の一員として、より良き奉仕ができるように訓練するにある。」松本兼二郎PDG訳。
 I serve という言葉は使われていないにせよ、個人奉仕と集団奉仕との関係について、この言葉の中で、根源的な深い洞察を学ぶことができるのではないかと思っています。
 そしてまた、この著書の中でも取り上げられているキップリングの言葉、「群れの力は狼である、そして狼の力は群れである。」これこそ、I serve の文学的解釈であると思っています。
 「I serve」に、現在使われているような深い意味が「なかった、与えられていなかった」にせよ、すなわち、この言葉の意味が「近世日本で付与されたもの」であったとしても、  ロータリーの本質を表すロータリー語としての価値が損なわれるものではないと考えます。たとえば、Service Not Self から発生したService Above Self の原典(一次文献)が明確でなくても、重要なロータリー語であるように。

 このモットーについては、この「ロータリアンの広場」の中で石井良昌PDGが詳しく述べておられ、その主張されるところには全く同感、百万の味方を得たような感激です。
 Service Above Selfは、没我の奉仕や滅私奉公ではないこと、また、He Profits Most Who Serves Best と相補って、二者を切り離しては意を尽くせないこと、仮にこの二つがそれぞれ単独で使われていても、その陰にお互いを支える言葉があり、この二者が相呼応して職業奉仕を語っていること、したがって職業奉仕とは、採算無視の値引きやおまけつきのサービスではないこと、これに異論を唱える人がいるのでしょうか。
 最近クラブの卓話で、緒方洪庵の話を聞きました。彼が翻訳した「扶氏医戒之略」は、医師の理想のありかたを説いたものですが、冒頭、「医の世に生活するは人のためのみ、おのれがためにあらずといふことを其の業の本旨とす。・・名利を顧みず、唯おのれをすてゝ人を救はんことを希ふべし。‥」と述べられています。確かに、その通りです。患者を前にした医師で、これでいくらの儲けになると考える人はまずいないのではないでしょうか。但し、洪庵の時代には貧者と富者とでは薬料を斟酌するを良しとしていましたが、現代では後刻、平等に正当な報酬を計算する定めになっています。すべての医療行為とその報酬は政治的に決められていますから、政治的な場では激しい折衝が起こることになります。
 扶氏医戒之略に掲げられたところは、「没我の奉仕」のように読み取られます。洪庵は、医師である傍ら蘭学塾を開き、福沢諭吉、大村益次郎、佐野常民、など当時の世の指導者を輩出していますから、「己を捨てて人に尽す」ことが、それまでの武家社会の「滅私奉公」の土台の上に、「我」の理想的な姿(相)とする社会の価値観が醸成されたのも不思議ではありません。
 そのような歴史的伝統文化の中へ導入されたロータリーにおいて、「Service Above Self」は「He Profits Most Who Serves Best」の鎖を離れて、職業奉仕までをも途連れに、宗教の悟りの境地とでも言うべき空間に浮遊していったのも無理からぬことと思います。

 「I serve」から離れて、二つのモットーを引き合いに出した訳は、この中の「Self」や「He」という「individual」である「I」こそ「I serve」の「I」であると意味付けたかったからです。
 「没我を至上とする我」ではなく、「我就に囚われた利己心の塊である我」を乗り超えて、人のために盡し利他の心を育もうとロータリーで修行する「我」が「I serve」の「I」でであると意味付けたかったからです。
 小著発刊後の質問の中で、「I serve を和訳せよ」とのこと。「訳し難きを敢えて訳せ」とのこと。そのためには先ず、Iの定義から取り組まなくてはなりませんでした。
 「我ありて、我奉仕す。」ご質問の答えになったでしょうか。

 誤解しないで戴きたいのは、没我の奉仕と超我の奉仕とどちらが上か、などと蚤の論議をするつもりでないことです。確かに、没我という己を捨てた「空」の境地は、ロータリーにあっても理想のありかたですが、それは「陰徳」の範疇ではないでしょうか。

 歴史的文献を考証し理念を解明するのはロータリー学であり、これを学ぶことは、「リーダー」としての必須条件です。しかし一方、日日のロータリーは「学問でもなければ宗教でもない」ことを忘れてはならないと自戒しています。
 いろいろ述べさせて戴きましたが、纏めたいと思います。

  1. 現在我々が認識しているような、ロータリー精神を表現する深い意味を持った I serve という言葉は、過去の文献や、公式の文書には見当たらない。したがってこのロータリー語の解釈を、新たに検討してもよいと考える。
  2. I serve は職業奉仕を象徴する言葉であるが、それ以上に深いロータリーの本質を表す言葉としての解釈を明確にしたいと思う。
  3. その一例として、以下のように考えることはできないだろうか;
    1)I serve の意味には、I serve を学び,より高い次元のI serve を求めて訓練(修行)するために、クラブで・地区で・RIで実施する集団奉仕活動を包括している。
    2)I serve の「I=我」は、没我の「我」ではなく、超我の「我=I」である。人間として厳然と存在するロータリアン「我」である。

皆様には、ぜひお考えをお聞かせ下さい。

(2014年7月17日)

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