「職業サーヴィス(職業奉仕)を考える」
 2700地区 廣畑富雄PDG
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- 日本の初代のガバナー、米山梅吉さんは、昭和11年、「ロータリーの理想と友愛」という本を出された。ポールハリス著“This Rotarian Age” の訳本である。その中で、“serviceサーヴィス”は一切奉仕とは和訳せず、サーヴィスとそのまま記しておられる。したがってVocational Serviceは、職業奉仕ではなく、“職業(向上)サーヴィス”と訳しておられる。なお現在入手できる「ロータリーの理想と友愛」は、米山さんの没後の出版であり、米山さんのサーヴィスという訳は、すべて奉仕に変えられている。米山さんの本来の訳に忠実な訳本も、最近出版された。「ロータリーの理想と友愛―読本」であり、富田PG(甘木RC)の出版である。
日本の第一回目の地区大会での、米山ガバナーの発言記録がある。「翻訳も種々試みて見た。しかし翻訳は、大変難しい。第一、サーヴィスという言葉、これが実に難しい。だから英語のまま使う方が良いと思われる」との発言である(1929年、前岡PG資料)。私も米国での永住権を得て、海外で永く生活したが、サーヴィスの訳については、米山さんの意見通りだと思っている。
- 一般に職業奉仕と言うと、分かり難いようである。例えば、職業を通じた奉仕なのだから、医師の無医村診療や、弁護士の無料相談などと誤解されやすい。‘奉仕’は無料で報酬は無い、と理解するからであろう。ちなみに職業サーヴィスは、私の大変関心のある分野である。2007年に、永年開かれなかったRI職業奉仕(サーヴィス)委員会が再開され、私は第1回の日本の委員を務めた。2008年春のエバンストンの会議には、世界から6人の委員が集まり、日本の渡辺理事がRI理事会とのリエゾン役をされ、大変有意義で活発な議論が行われた。この委員会の審議と、R I理事会への勧告については、簡潔にまとめて、ロータリーの友誌、2009年1月号に寄稿し、掲載されている。
- 英語のサーヴィスという概念は、奉仕よりずっと広い概念で、相手をおもんばかり、相手のためになる行為である。“サーヴィス”は奉仕とは異なり、有料が普通であろう。一例をあげれば、飛行機を降りるときCAが、「また皆様にサーヴィスできることを願っています」と必ずアナウンスする (例、We look forward to serving you in the near future)。これは「近い将来、皆様にまた乗って頂きたい」という意味であり、皆様に奉仕したい、無料で乗って頂きたい、そういう意味でないことは、言うまでもない。
- 「職業サーヴィス」は、端的に言えば、相手に対し、思いやりの心をもって接し、そのように行動することである。医師で言えば、患者さんへの思いやりの心、ビジネスで言えば、例えば売る方であれば、買う方への思いやりの心をもって接し、行動することである。ロータリーで有名なシェルドンによれば、このやり方でビジネスをすれば、長い目で見れば、永続的な顧客を獲得して、成功への道に通じるという。ここから有名な、ロータリーの二大公式モットーの一つ、He Profits Most Who Serves Best(現在はHe⇒One)、「最も良くサーヴィスする者、最も良く報われる」が生まれた。より正確に言えば、ロータリーはすべての行動の基本に、サーヴィス、思いやりの心を置くものである。
なお私的な事ではあるが、かってこのモットーのHe がThey に変えられ、複数形になっていた。それでは概念が違うので、2007年の規定審議会で、複数形から単数形に戻すよう私が提案、趣旨説明し、幸いそれが通って単数形になったのは、嬉しいことだった。
- 日本の2代目ガバナー、井坂さんの月信を見ると、国際ロータリーの職業サーヴィス委員長から、「職業サーヴィスは人間の社会生活で最も重要である。だから職業サーヴィスを鼓吹してもらいたい」、という連絡を受けたとある。確かに、誰もが職業サーヴィスを重視すれば、より良い社会が生まれるだろう。例えばリーマンショック、これは昭和の初めの大恐慌以来と言われる金融パニックだが、リーマンブラザース社を始めとする、倫理感、公正さを欠いた住宅ローン(サブプライムローン)を底辺として起こった恐慌である。日本の株価は半減し、多くの銀行が吸収合併の憂き目に会ったのは、記憶に新しい事である。
- 上記のリーマンショックの例は、あまり身近に感じないかもしれない。それで私の身近の医療の分野で、例を示してみたい。
東京の築地に聖路加国際病院がある。日本各地から患者さんが集まる有名な病院である。聖路加は、キリスト教の聖公会が創った病院で、患者さんへの愛を中心にした医療を行う。それが病院の繁栄につながったのであろう。(私が聖路加で勉強したのは、遠い過去の事になったが)
- もう一つの例だが、福岡県南部の田舎に、戦争中ある家族が戦火を避け、疎開してきた。戦争が終わり、その一家の軍医が帰国し、 その地に家族を訪ねる。後に福岡県でガバナーを務めた、横倉先生である。その地の村長さんか町長さんが、医師のいない地域であり、是非とどまって医療をしてほしいと懇望し、横倉先生は一時的に小さな診療所を開くことになった。
横倉先生の出身教室の教授は、入江先生である。私も非常に親しくして頂き、良く憶えているが、入江さんの診療のモットーは、「病む人の心を」であった。これはロータリーの職業サーヴィスの理念に通じる。結局横倉さんの診療所は、やがて地域の中核を担う大病院となった。横倉さんは、田園地帯から中核都市の一つとなった同地で、医療面での功績などで、最初の名誉市民になられた。そのご子息は、日本医師会の会長となり、さらに世界医師会の会長にもなられた。横倉PGが病没され、その偲ぶ会で、「父は生涯四つのテストを守った人でした」と挨拶されたのが忘れられない。まさに横倉PGは、「最もよくサーヴィスする者、最もよく報われる」というロータリーモットーを、身をもって示されたと思う。
- 話が前後するが、ポールハリスは職業サーヴィスを定義し、Vocational Service: That is, in matters pertaining to the ethical conduct of his business or profession 「職業サーヴィス(奉仕):これは実業や専門職(医師、弁護士など)を倫理的に行うことである」と述べている。サーヴィス、相手のためを思えば、高い倫理性が必要なのは当然である。
- 世界のロータリーは、激動の時代に入った。社会奉仕、特に発展途上国の援助が重視される。ポリオの根絶が成功した後は、発展途上国の多くの問題、貧困対策なども重視されよう(規定審議会での議論)。世界の会員数は、120万人と変わらないが、この10年間に、発展途上国では10万人増加し、いわゆる先進国では、逆に10万人も減少した。例会も、月2回で良い(理事会提案では、年1回でも良い)、会員資格も、誰でもよい、という事になった。ロータリー百余年の歴史と伝統を重視する日本のロータリーにとり、厳しい時代となった。
しかし良き伝統は保持し、それを世界に拡大して行きたいものである。あるRI元会長が、毎年日本の地区大会にお見えになる。「日本の地区大会が、最も楽しい」と言われる。私も10年位前に、ボストンロータリークラブの例会に、十数年ぶりに出席した。世界で7番目に創立された名門クラブである。 かっては会員数が、400人〜500人だったのが、当日の例会出席者は10名あまりで、ショックを受けたのを思い出す。
日本のロータリーは、ロータリー100余年の良き伝統を、職業サーヴィス(奉仕)を含め、胸を張って保持して行きたいものである。
(2017.11.20)
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