「良き指導者、田中 毅(たけし)先生」その2
![]() 2680地区 石井良昌PDG |
前回で田中先生が実践面においても非常に卓越された活躍をされたことは書かせていただきました。今回は理論面について触れてみたいと思います。田中先生は医者として、また自然科学を志す者として全ては証拠に基づいて解釈しようと考え、当事者が書き残した一次文献に基づき、それを理解する必要があると考え、何が真実かを探求していかれました。
そこで、ロータリーに奉仕理念を提唱したアーサー・フレデリック・シェルドンに強く惹かれ、アメリカのRI本部の資料室やインターネットによる検索やアメリカの連邦図書館まで蔵書リストを手掛かりにして、シェルドンの本を60数冊という文献を収集され、入手されました。そこで毎日のようにシェルドンの一次文献をつぎつぎと翻訳していかれました。そういう中、色々なことが判明していきました。
まずはロータリーの奉仕理念であるHe profits most who serves best. が職業奉仕理念であり、「最もよく奉仕するもの最も多く報いられる」というこのフレーズはシェルドンの色々な本によく出てきます。またもう一つの奉仕理念であるService above selfは人道的奉仕活動の理念とされるフレーズで「超我の奉仕」と訳してますが、このフレーズはシェルドンの本には全く出てこないので、シェルドンが考えたものとは言えないことが分かりました。
さて、シェルドンの文献は15年程前までは1921年に発行された「ロータリー哲学」という文献のみであり、スピーチ原稿なのであまり参考になりません。田中先生の収集された多くの本の中に次のようなことが判明しました。
それはシェルドンが He profits most who serves best. というフレーズを最初に使ったのは、1902年のシェルドン・ビジネス・スクールという経営学を学ぶ学校の教科書として出版されたSuccessful Selling(商売に成功する方法)の
第5巻の文中に出てきます。そこで、この教科書が1902年の発行のものなので今まで我々が信じていた He profits most who serves best. というモットーは、シェルドンがロータリーのために考えついたり、偶然シカゴの散髪屋で思いついたりしたフレーズではなく、ロータリーが創立する1905年より以前の1902年にシェルドン・ビジネス・スクールで教えていたカリキュラムの一節で使われていたフレーズで、それをロータリーが借用していたに過ぎないということが分かりました。
シェルドンのモットーはロータリーが生まれる前に作られたものですから、ロータリーの職業奉仕を表すオリジナルなモットーとは言えず、後年ロータリー全体の奉仕理念を表すモットーとして使われだし、ロータリーに職業奉仕という概念が生まれた1927年以降、職業奉仕のモットーに変化して定着したことになります。
シェルドンの奉仕理念は、継続的な事業の発展を得るためには自分の儲けを優先するのではなく自分の職業を通じて社会に貢献するという意図を持って事業を営む、すなわち会社経営を経営学の実践だととらえて、原理原則に基づいた企業経営をすべきだと考えました。さらに良好な労働環境を提供するのは資本家の責務であると考え、資本家が利益を独占するのではなくて、従業員や取引に関係する人たちと適正に再配分することが継続的に利益を得る方法だと考えたのであります。
また、ロータリーでは職業のことをVocationと表しており、このVocationという言葉の語源は「天職」であるということはまちがいありません。しかし
ロータリーがVocationという言葉を使い始めたのは1927年の四大奉仕採用時からであり、シェルドンの奉仕理念とは何の関係もないと田中先生は説いておられます。シェルドン自身は、経営学として職業を説いているので、宗教的要素を取り入れることを殊更嫌い、シェルドンの全ての文献を検索しても、神を引き合いに出したり、Godという単語を使ったりすることを避けています。
また、Vocationという言葉は一切使っておらず、すべてOccupationと表現しております。このようにシェルドンの He profits most who serves best. というフレーズをお話しになる時は、神を引き合いに出したりせず、職業奉仕についてお話しになる時は職業奉仕理念であるこのフレーズに必ず触れるべきである、と説いておられます。
ロータリーに奉仕理念を提唱したシェルドンは1902年に、経営学を教えるためにシェルドン・ビジネス・スクールを設立して、当時誰もが知らなかった、新しい考え方の経営学を提唱して、経営学という学問に基づいた奉仕理念を提唱して、多くのロータリアンに恩恵を与えました。
こういったシェルドンの考え方がシェルドンの多くの本に掲載されていて、田中先生がそれらを紹介されているのであります。このたび、6冊からなるシェルドン・コースの膨大な本が発刊されることになり、名実ともにシェルドン研究の第一人者となられました。田中先生は常々ロータリーにはしっかりとした原点があり、混乱した時にこそ初心に帰って原点を見直すことが必要である、と力説されておられます。われわれはこの言葉を重く受け止め、正しい奉仕理念を理解していきたいと考えます。
田中先生としてはロータリアンに真実に基づく正しい奉仕理念を理解していただくため次のような努力をされておられます。それは情報伝達媒体として、1999年5月から「ロータリーの源流」そして2010年5月から現在の「源流の会」を通し、延べ約40万人のロータリアンがアクセスしておられ、ロータリーに関する蔵書数も11,000冊、源流の会の会員数も400人を超えておられます。
正しい奉仕理念をデジタル化して貴重なロータリーの文献を永遠に保存して、未来のロータリアンに役立つように尽力されておられます。
(2014.02.23)