「詳細 井坂 孝PDGのサービス理念」
 2680地区 PDG 田中 毅
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日本で最初のガバナー月信が発行されたのは、1930年5月、米山梅吉ガバナーが手書き謄写版刷りで発行した「コンフェレンスまで」、次いで1931年4月に発行された「コンフェレンスのあと」です。
正式にガバナー月信として発行されたのは1933年、井坂孝ガバナーであり、邦文タイプ打ちの本格的な出版物です。
直木太一郎ガバナーの文献には、井坂ガバナー月信の第一号に、ロータリーの活動はその6つの綱領の達成に限るべきであり、業務遂行上の賄賂の厳禁、安易な慈善に走ったり,寄付集めに浮身をやつすことを禁止すると書かれています。私は、この何十年来、日本中はもちろんRIの資料室にも赴いて、あらゆる手段を講じて、井坂ガバナー月信の1号と2号を探したのですが、原本もコピーも発見することはできませんでした。ガバナー月信はクラブ会長、幹事のみに送られていたので、当時の日本のクラブ数は11、従って22部しか発行されなかったので、RI脱退、戦火などの影響で失われたものと思われます。
井坂ガバナー月信の3号以降は、現存されており、ロータリー源流のアーカイブスに収録されておりますので、ご熟読ください。
初期のガバナー月信は、殆んどRIからの連絡事項を伝達するために書かれていますが、井坂孝ガバナーの昭和8年2月23日発行のガバナー月信第8号には、ロータリーのサービスに関する理念が、詳しく記載されていますので、ご紹介します。特に職業奉仕に関しては、シェルドンの経営学に、基づくサービス理念が詳細に述べられている、貴重な資料です。85年前の日本に、シェルドンのサービス理念が正しく伝えられていたことに、驚きを禁じ得ません。
なお原文は極めて難解な文語体ですので、口語体に翻訳いたしました。
 井坂 孝 PDG
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月信本文
人間は孤独の生活ができない群居の動物です。群居しているが故、人と人との関係が起こります。人と人との関係が起これば自分の都合のみ考えるわけにはいきません。従って群居の状態を良くするためには、各自が人のために役立つことを考えなければならなくなります。人のために役立つことを英語では、「サービス」と言います。ロータリーはサービスを以って、人間活動の根本観念する運動です。この運動を達成する目的をもって実業人が集って、自己の業務を通じてサービスを行う組織がロータリークラブです。
サービスは実業人だけではなく、政治家も宗教家も教育家も学者も皆、必要です。しかし、ロータリー運動は実業人の運動なので、ロータリークラブは実業に従事している人々の中より、一業に付き一人に限って、会員を選考して、協力して各自の業務を通じて社会人類に貢献する、即ちサ ―ビスを行う団体です。
その目的は、前述の通り、サービスですが、ただ、サービスと言っただけでは漠然としているので、これを具体的に示すために、次の6項に分けて規定しています。
- サービスの概念を一切の企業の基調とすること。
- 各業務における道義的標準を向上すること。
- 私生活、業務の執行、社会生活において、サービスの観念の応用に努力すること。
- サービスをなし得る機会を作るため、交友を広めること。
- 一切の業務の価値を認識し、社会にサービスを行う機会を与えるために、自己の業務を尊重すること。
- サービスの概念の下に結合された、実業人の世界的友好に依り国際間の平和の促進に努力すること。
ロータリーに於いてはそのサービスを、次の4つに分けています。
1. | ロータリーの主義精神を実行するためには、実行力を強くするための堅固にして、活動力旺盛な団体が必要です。その目的を達成することが第一のサービスです。一人一業種とか毎週会合を開くとか、出席を厳しく問うことは、組織を堅固にして活動を有効にするためのサービスであり、これをクラブ・サービスと呼んでいます。これは対内的な活動ですが、残りの三つのサービスは対外的な活動になります。
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2. | ロータリーの根本となるのが、各自の業務を通じて社会人類にサービスをすることであり、これをヴォケーショナル・サービスと言います。今日世界一般に於いては、ほとんどの企業は利益を目的にしています。仮に、事業の計画を発表して株を募る場合に、この計画の第一の目的はサービスであって、利益は第二であると言えば、株を買う人はいないかもしれません。
しかし、その事業がもし社会人類に対するサービスにならないものならば、おそらくその事業は成立しないでしょう。サービスになればなるほど、その事業は繁盛するわけですが、一般の人は利益第一主義で考えますから、サービスと利益が衝突するように見える場合は、サービスを捨てて、利益に走るようです。我々はその事は間違っていると考えているのです。サービスを捨てて、利益に走るものは、結局は真の利益を獲得しないと思います。
また、業務に於いて、サービスをすることは、その適用の範囲がすこぶる広範です。例えば製造工業ならば最善の方法によって最低のコストで最良の製品を作り出すことがサービスです。その製造に携わる職員や労働者の最善の能率を発揮させるためには、それに適応した最大の報酬を与えることもサービスです。なぜならば、人間の活動を有効に活用した結果、最大の報酬を支払うことが可能になれば、従業員も幸福を享受することができるからです。
品物を販売するに当たっては、世間を欺瞞するような、また、競争者を不当に傷つけるような宣伝広告をせず、フェア・プレーでいくことも、またサービスです。何故ならば、これによって、広告宣伝に対する一般公衆の信用を確立し、最小の販売費によって最大の結果を得ることができるからです。このようにして、その事業に関係ある全ての人に満足を与えることができるのです。
理屈は簡単ですが、実行は簡単なものではありません。我々ロータリアンはその実行に於いて種々苦労努力を重ねているのです。これは製造工業に関する一例ですが、いかなる業務においてもこの理屈は通用するのです。
ロータリーにおいては、この結果を”He profits most who serves best”と結論付けています。
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3. | 第三は、ロータリアンは、サービスの精神を業務上に於いて実行するだけでなく、これを私生活にも、社会生活にも適用しなければなりません。このサービスをコミュニティ・サービスと言います。ロータリアンはその家族に対しても、隣近所の人に対しても、自分が住む地域社会の人に対しても、何らかの役に立つことを心掛けるべきであり、各人がそのように心掛けるだけで明るい社会になります。
各国のクラブは、その国情を勘案して、数々の有益なサービスを行っています。将来の社会を改善するために子供の生い立ちに尽力する者、不幸な不具な子供に同情する者、学生の学費を援助する者、各国の学生を交換する者、養老院を慰問する者、学童にロータリーのサービス精神を鼓吹する者、即ち、世の中にロータリー精神を普及して、此の世を住みよくするために、あらゆる努力をすることが、コミュニティ・サービスなのです。
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第四は国際間のサービスであり、インターナシュナル・サービスと呼んでいます。ロータリークラブは同一組織、同一会則の下で世界各国にできており、ロータリーの目的達成のために世界中のクラブの連絡統制を図ることができます。従ってロータリー本来のブォケーショナル・サービスだけではなく、その組織を利用して国際間の平和親善に協力するのが、インターナショナル・サービスの起源です。ロータリアンは人種や環境の如何を問わず、初対面より旧知のごとく交わり、国際間の問題があったとしても、ロータリアン同士は隔意なき友誼によって、虚心坦懐な議論をすることによって、問題解決に協力することができます。
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ロータリーの目的は今まで述べた通りですが、ロータリーは議論よりも実行を標榜していますから、我々は、その目的の実現のために一意専心精進しています。
以上が、井坂ガバナー月信の詳細ですが、注目すべきは、”He profits most who serves best”にprofitの単語が使われているので不適当だという、イギリスのWASP White Anglo-Saxon Protestant 派の影響を受けて、1929年の地区大会で東京クラブから、このモットーの撤回が提案されるという事態が起こりました。その渦中で、井坂ガバナーが敢えて、このモットーこそがロータリーのサービスの原点であると述べていることに注目する必要があります。
創世記の日本ロータリーに、偉大な指導者が存在していたことが、その後の直木太一郎ガバナーなどの数多くの理論家を生み出して、日本ロータリーの発展に大きな影響を与えたものと思われます。
(注)井坂 孝 スペッシャル・コミッショナーを経て、1931〜1933年ガバナー 横浜
(2018.11.07)
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