「21世紀の職業奉仕への提言」
2650地区 GN 刀根荘兵衛(敦賀)

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2650地区 GN 刀根荘兵衛

 ロータリーの職業奉仕理念を構築したのはアーサー・フレデリック・シェルドンであります。彼によれば、事業が継続的に発展するためには、自分の儲けのみを考えるのではなく、まず他人のためにという意図を持って事業を営み、従業員や仕入業者などと利益を分かち合うことが唯一の繁栄の方法だと言うことでした。この思想は、弱肉強食の初期の資本主義の時代にあって、来るべき20世紀の修正資本主義を先取りした、極めて斬新な考え方であったということでした。
 1916年ガイ・ガンデッカーによって纏められた当時のロータリー教科書であった『ロータリー心得』によれば、ロータリークラブの4つの目的は、第1に個々の会員の向上、第2に会員企業の実践と理念の向上、第3に所属業界の向上、第4に家庭、地域社会、延いては社会全体の向上と記されております。特に第2の目的は、企業活動として、シェエルドンの提唱する正しいビジネス・メソッドの実践と高い倫理基準の普及を目指すものであったと理解いたしております。

 ただ、シェルドンの退会と共にロータリーの職業奉仕理念は大きく変貌し、ビジネス・メソッドから天職論を念頭に置いたボケーショナル・サービスへ、更には倫理道徳運動に発展していったように思います。  そして近年では、ロータリーの職業奉仕は、職場における高い倫理基準を促進したり職場訪問をするだけでなく、若者の職業指導や支援、就職相談、小規模起業家支援、優良従業員表彰、自分の職業におけるボランティア活動などへ変遷し、およそシェルドンが掲げた初期の理念とは懸け離れたものになってきたように思われます。
 このようなところに、日本のロータリアンの考える伝統的な職業奉仕と世界のロータリアンの考える職業奉仕の考えの隔たりがあるように感じております。  日本では、江戸時代より論語などに基づいた教育によって、梅岩や近江商人に代表されるような高度に倫理的な職業理念が浸透して言ったように思います。そして、それは商売を『商売道』という高い境地にまで昇華させていき、その結果「職業を通じて自己を磨き、職業を通じて世の中に役立つ」と言う日本人の独自の職業観が形成されていったように思います。

 また、このような日本人の職業観は偶然にも、シェルドンの「奉仕理念」“He profits most who serves best.”とも合い通ずる考え方でもありました。しかも驚くべきことは、この日本人の職業観がシェルドンによるロータリーの奉仕理念を発表する300年前にすでに定着していたことであり、いまなお多くの日本のロータリアンがシェルドンの理念に共鳴するのは、そのような下地があったからではないかと思います。
ところで、フランスの経済学者・思想家であるジャック・アタリ氏は現在の市場民主主義経済が21世紀中ごろには理想的な超資本主義経済に到達すると予言しています。また、アタリ氏は収益が最終目的でない愛他主義の調和重視企業が21世紀のあるべき企業の価値観だと述べています。
さらに、バングラデシュで「貧困なき世界をめざす銀行家」と謳われるグラミン銀行総裁のムハマド・ユヌス氏(2006年ノーベル平和賞を受賞)も現在の資本主義のありかたが、人々の心を荒ませていると指摘しています。ユヌス氏は、人間のもう一面であるセルフレス(無私)の心で、個別の利益を超えて、全体の利益を図れば、人類が繁栄し、結果的に個人も発展するとこれからの企業のあるべき姿を説いています。 いわゆる共生と言う考え方であります。

 お二人に共通する未来像は、21世紀の企業は自社の利益のみを追求するのではなく、社会全体の利益を目指し、社会貢献という理念のもとで行動する、そして株主は金銭の配当(金銭的Profit)を求めるのではなく、心の配当Profitを得ることで満足する世の中になると言うことになります。
 現在、21世紀の世界経済はお金や物や人が自由に移動することができるグローバル社会と言われています。
 同志社大学 浜矩子教授によれば、本当のグローバル社会は、自由競争で一握りの強い者だけが栄えて、貧困層だけが広がっていく弱肉強食の格差社会ではなく、むしろこのような古臭いグローバル経済像から抜け出し、多様な個性と機能を持ち寄って共に支えていく進化した社会になると言うことになります。そして、それはちょうどジャングルにたとえられると言うことです。

 ジャングルでは百獣の王のライオンから小動物たち、 草木、果てはバクテリアまで生きています。強いものは強い者なり に、弱い者は弱い者なりに、多様な個性と機能を持ち寄って、生態系を支えている。これが本当のグローバル社会なのだと浜教授は主張されます。
 さらに、21世紀では“SHARE”の意味が20世紀とは全く180度違ってしまう時代とのことでした。すなわち、20世紀の経済の“SHARE”は市場占有率を意味し、21世紀のグローバル時代(成熟経済)では“SHARE”は『わかちあい』を意味するということになります。
 昨今、行き過ぎた市場主義経済のもたらした100年一度と言う大きな経済危機の中で、ロータリーこそが21世紀にふさわしい職業奉仕、つまり『わかちあい』の心を持って、利益を最終目的としないソーシャル・ビジネス型の実践モデルを新しいロータリーの職業奉仕として世界に提言すべき時ではないかと考えております。
                         

2014年01月23日

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