続々々・『職業奉仕』
職業奉仕(Vocational Service)のルーツ
職業奉仕(Vocational Service)のルーツ
![]() 2510地区 PDG 塚原房樹 |
ロータリーはアメリカで生まれました。したがって当然、キリスト教神学の教えがその根底にあります。ロータリーで言う「奉仕の理想」とは、新約聖書のマタイ伝の「己の欲するところのものを相手に施すこと」という黄金説(ゴールデンルール)の事なのです。ではロータリーで言う職業奉仕(Vocational Service)のルーツをマックス・ヴェーバーの『エートスの倫理』を引用しながら探ってみましょう。
《ピューリタンの伝統----ニューイングランド気質》
ロータリーが結成されたのはシカゴですが、そのアイディアが形成されたのはアメリカ発祥の地であるニューイングランドでした。ポール・ハリスは、ニューイングランドの自分の家系をたどるとピルグリムファザーズ(巡礼始祖)までさかのぼると、漏らしたことがあります。エリザベスー世統治下のイギリスで、宗教的迫害を逃れてオランダに渡ったピルグリムファザーズは、さらに1620年に意を決して「メイフラワー号」に乗り、アメリカに移住しました。40人の船員と102人の乗客を乗せ、3,000マイルの冬の海を航海した全長90フィート、180トンの「メイフラワー号」は、アメリカ史上もっとも有名な船です。
アメリカの歴史は、ピルグリムファザーズ、つまり流浪する父祖たちがプリマスに上陸したときから始まります。
ピューリタンたちは、英国国教会の腐敗に反対して、清潔で厳格な倫理的な生活態度を徹底的に求め、ついにクロムウエルはピューリタン革命に成功、1649年にはチャールズー世の処刑という前代未間の事件がありました。クロムウエルは神の栄光を増すため、世俗的な楽しみ、娯楽を一切退けてしまうのでした。
そもそも利潤追求を自己目的として天職とみなすような見方は、どこから来たのでしょうか。古代も中世もこのような天職の意味は全く知られず、むしろ労働をすることは、下品な根性として軽蔑されていました。天職という言葉は宗教改革のルターが作り出しました。自分と神との関係、自分の魂の救い、彼岸における自分の運命をこそ重視して、世俗的な日々の労働を道徳的実践の最高の内容として神聖化するものでした。この“職業聖召観"こそロータリーの職業奉仕(Vocational Service)なのです。
《カルヴァンの「預定説」》
そしてまたピューリタンたちが拠り所としたのが、スイスのジュネープで起こったカルヴァン主義でした。カルヴァンのあの超絶した恐るべき「預定説」とは、神はある人々には永遠の命を、他の人々には永遠の死を定め給うたのです。人は自分が選ばれた人に属しているか、それとも永遠の罰を承けた人に属するかと、自ら恐怖と戦慄をもって間うことになります。カトリックの場合、平凡な人間の欠陥は教会の恩寵手段、例えば懺悔の制度によって贖われうるようになっていますが、カルヴィニストの場合はそうではありませんでした。
こうしてピューリタンたちは一切の感覚的文化や感覚の喜びを避けると共に、ひたすら彼岸に向け、自己の魂の救いについての不安に戦きながら、自分のこの世における仕事を神への奉仕として営むのでした。ポール・ハリスもまたピューリタンの末裔である祖父母より、禁欲的な生活態度と、勤労に対する意欲を学びました。それと共に村の人たちの政治や宗教に対する大らかな心づかいも学びました。ニューイングランドの厳しいピューリタンの宗教的戒律が、後のロータリーの実践倫理の道徳となって開花したのです。
《フランクリンによる倫理から営利への道》
このように“宗教的活動"そのものが実は“経済的活動"で、営利事業は各人の私的な営みでありながら、しかもそれは神の所有物であり、各人は神からその管理を委ねられているのにすぎないのです。しかし鉄の意志をもつピューリタンといえども、聖書の説いたように「神と富とに兼ね仕えること能わず」であります。高貴な精神によって支えられた生活様式は、富の蓄積によって破壊されることになりました。
そしてその宗教的な根が枯れてしまって、初めて職業義務の思想と禁欲的態度は、その効果をこの世で発揮し始めました。もはや燃えるような宗教的情熱ではなく醒めた冷静な職業義務の思想が、神の国への思いでなくこの世への思いが、ベンジャミン・フランクリンに引き継がれていったのです。神の国を求める激情が次第に冷静な職業道徳にまで解体し始め、宗教的根基が徐々に生命を失って功利的現世主義となっていったのです。
フランクリンの場合には、富裕に至る道は、同時に道徳的完成への道だと考えられていました。すなわち、勤労、質素、周到と言った道徳の実践の結果は必ず利益獲得となって現れるほかはなく、利益は倫理的な諸徳性を現実に実践したことの結果であるとみなされました。つまり、営利のための努力と道徳的完成のための努力が同時に一つの事柄の二つの側面として存在していると言えます。
フランクリンは宗教的レベルの天職論(神のみ心にかなう隣人愛)を、道徳として日常生活の中に職業義務の思想として提唱しました。彼は“ニューイングランド精神"を具現した人物というよりは“典型的なアメリカ人"、“すべてのヤンキーの友"“賢人"などの呼称が示すように、アメリカ全体の“精神的父"のような存在でした。その影響力は大きく、ポ‐ル・ハリスの「ロータリーは宗教でもなければ、その代用物でもない。古くからある道徳観念を……」という言葉は、ロータリーにおける信仰の自由の表明であり、フランクリンの功利的現世主義に根ざすものでありました。またフランクリンが「自伝」に記している“徳を得るための13の項目"は、ポールが祖父母から習った道徳、すなわち、犠牲、献身、名誉、友愛、誠実、勤労、質素と同じものでした。そして、ロータリーにサービスという概念をもたらした、アーサー・フレデリック・シェルドンの「奉仕に徹するものに最大の利益あり」というモットーもこの実業倫理主義に基づいたものと思われます。ロータリーは「神を抜いたピューリタニズム」と言えましょう。
(2014.11.25)
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