ロータリアンの広場


『続・続 アメリカのロータリーの底流にあるもの』
2510地区 PDG 塚原房樹(札幌東)
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2510地区 塚原房樹PDG

 2019‐20年度のRI会長テーマは、「ロータリーは世界をつなぐ」というフレーズです。「世界を一つに結ぶロータリー」というロータリーソングがありますが、ハーバート大学のハッチントンの著書『文明の衝突』によれば世界をつなぐことは難しい。ハッチントンは、アメリカは過去の西欧の歴史から、自分たちの文明こそが普遍的なものだと錯覚し、多文明の存在を十分に理解せず、反発を招いているといいます。 文明と宗教とは密接に関係しあっています。諸文明の間の衝突は諸宗教の間の衝突と見なすこともできるでしょう。 では、そのアメリカの文明の底流にあるものとは、日本の元外交官「佐藤優」氏によると、欧米人の深層心理に潜むコルプス・クリスティアヌム=キリスト教共同体のことだそうです。アメリカで生まれたロータリーの底流にあるものはキリスト教的共同社会なのです。

 近代とはヨーロッパが肥大化した時代です。換言すればヨーロッパ的な思考の在り方が全世界に浸透した時代でした。ヨーロッパ的な思考の在り方は、キリスト教文明と不即不離です。日本ではキリスト教は非主流派であるために、あいまいにとらえられてしまっていますが、コルプス・クリスティアヌムは一種の文化総合体のことなのです。すなわち、ユダヤ・キリスト教の一神教の伝統と、ギリシャの古典哲学、ローマ法という「三つの要素から構成された総合体」で、これを「コルプス・クリスティアヌム」といいます。

 近代の世俗化とともに欧米人の深層心理には、コルプス・クリスティアヌムだけが人間の文明であるという刷り込みがなされました。なお、「三つの要素から構成された総合体」といいましたが、これは1つのサラダボウルの中に3つが入っているということではありません。3つが混然一体となりアマルガムをなしているということです。 日本人は白人が一生縛られる深層心理、コルプス・クリスティアヌムを理解していません。ユダヤ人がキリスト教を作り、イスラム教を作りました。ユダヤ人がコルプス・クリスティアヌム(キリスト教共同体)を白人にすり込んだのです

 ロケット開発の父として有名だった糸川英夫博士は、「日本の科学には神との緊張感が無い。なぜならニュートンの力学やアインシュタインの相対性理論を取り入れた時、背後にある神は置き去りにしてしまった。政治も経済も同じで、日本では失敗しても神への倫理的責任はあまり問われない」と云われました。 糸川博士の言われた「背後にある神」とはコルプス・クリスティアヌムのことです。

 ロータリーも同じです。和魂洋才といいますが、1920年に日本にやって来た時には、カルビニズムの職業天職論は導入されましたが、背後にある白人が一生縛られる深層心理、コルプス・クリスティアヌムは置き去りにされました。それが、なぜ日本人は欧米人と腹を割って話せないのかという理由なのです。 日本人は明治維新以降、ヨーロッパ的な思考の影響を受けたとはいえ、コルプス・クリスティアヌムをそのまま継承しなかったのです。つまり法律という実学を中心にして、我々はヨーロッパの学問を輸入したわけです。

 こうしてわれわれ日本人は、コルプス・クリスティアヌムのうち3番目のローマ法の伝統から入って、そこを西洋としてとらえてしまいましたので、ユダヤ・キリスト教の伝統とギリシャ古典哲学が抜け落ちてしまったわけです。その影響は深刻です。ロータリアンもそうでしょうが、日本のビジネスマンとか外交官は、仕事は一緒にできてもその後の付き合いのところまでは進展しないと欧米ではよく言われます。外国人と話す時もローマ法の範囲内、つまりテクネー(技術)の範囲内でしか話ができないのです。 外交交渉であれ、実務交渉であれ、テクニカルな面には長けていても根本的な教養が欠落しているため、欧米人と腹を割った話ができない。教養というのは自分の頭で考えていく創造的な能力です。それはコルプス・クリスティアヌム的な文化総合の中から生まれてくるわけです。

 しかし裏返して考えると、我々日本人には、プラグマティズムとコルプス・クリスティアム的なものではない独自の教養があるはずです。その教養というのは儒教的なものや、神道的なものや、仏教的なものの総合体であって、近代以前の我々はそこで道理を学んできました。 ロータリーでは政治、宗教の話はタブーとなっています。なぜなら異なる文明圏に存在するロータリーは互いの違いを認め合う多様性にこそ存在意義があります。しかし彼我の文明の違いを認めるということは、その前提として彼我の文明の底流にあるものを知らなければなりません。その意味で、アメリカで生まれたロータリーの底流にあるプラグマティズムとコルプス・クリスティアヌムについて触れてみました。

 最後にポール・ハリスの言葉をお伝えしましょう。「共通の仕事に協力せよ。意見同じからざる問題はこれを避けて、あえて論議するなかれ、しからば我らは友愛をもって報いられるであろう」と。

****宗教改革は中世におけるローマ・カトリック教会の支配体制を崩壊させ,新しい教会形成のあり方を提出した。しかしルターやツヴィングリ,カルヴァンをはじめとする宗教改革者たち、いわゆる宗教改革主流派は,政治権力との関係については,それまでのカトリック教会と同様,両者の結びつきを前提として「国教会」としてのあり方を採り,いわゆるコルプス・クリスティアーヌム(corpus christianum),すなわちキリスト教社会のあり方を踏襲した。 そして何が衝突の根本的な原因になるかについて、それはイデオロギーや経済や人種ではなく、「文明」という言葉で表現されています。

(2019.12.25)

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