ロータリアンの広場


「人は後ろ向きに未来へ入っていく」
2510地区 PDG 塚原房樹(札幌東)
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2510地区 塚原房樹PDG

 国際ロータリー50周年の時のRI会長は、「四つのテスト」の創案者のハーバート・テーラーでした。彼はその式典で「過去に学んで行動せよ」というテーマでスピーチをしました。では、過去に学んで行動するとはどういうことでしょうか。ロータリーは時代の変化とともに変わるものと、いくら時代が変化しようとも決して変えてはならない不易なものがあります。ロ―タリアンは先輩が開発した「過去の英知」を大切にしながら漸進的に時代の変化に対応していかなければならないということでしょう。

 フランスの詩人 ポール・ヴァレリーの詩に「湖に浮かべたボートを漕ぐように、人は後ろ向きに未来に入っていく」という一節がありますが、この詩は、ハーバート・テーラーの「過去に学んで行動せよ」というスピーチをうまく補完していると思います。ヴァレリーは「我々は未来に後戻りして進んで行く」とも云っています。ご存知のように、手漕ぎのボートをまっすぐに進めるためには逆の方向をしっかり見つめて漕がなくてはなりません。人間の時間の歩みもそれと同じで「過去を直視」することによってこそ、まっすぐ前に進んでいくことができるのではないか。それがこの詩の言葉の意味するところです。

 過去を直視した時、そこに見えるのは「死者たちの風景」です。死者たちの英知をしっかり見ることによって、はじめて私たちは未来に向けて前進することができます。過去や死者を思うことは、単なる「保守思想」ではなく「未来志向」なのです。

 我々の社会は死者たちが築いた歴史の上にある。つまり死者は生きている。しかし、今生きている人間だけで何かを変えようとしてしまい、それは過去を無視してしまいます。さらに人々は自分たちの根拠なき力を過信し、不安に突き動かされ暴力的になっていきます。“生きている死者”とは、いなくなったのではなく、”死者”として存在していると考えられました。生きている我々は何でも変えられると思っているが、よくよく考えてみると、私たちの現在は膨大な過去によって支えられています。それを無視して今生きている人間の都合だけで、これでいいとばかりに飛びついて、新しいものによってすべてを帳消しにしてしまい、変えてしまうというのは、実はとっても危ないことではないのでしょうか。      

 単純化、そして過去を無視する時代となった現在、ロータリーは「先人の英知」をないがしろにして、自由結社から非営利組織への革命を経て、世界最強のボランティア団体になろうとしています。そしてその目的を達成させるためにRIは「過去の英知」を忘却して未来成形のプログラムを推進させようとしています。

 あらゆる組織も存続するためには、変化が必要です。ただし、一気に赤から青へというように、自分の力を過信して、過去をひっくり返してしまうようなことは後に大きな悔いを残すのではないでしょうか。不完全性を抱えた、間違いやすく誤謬に満ち溢れた存在である有限な人間は 到底、理想の世界に到達できないでしょう。しかし中には、それは「保守思想」だという人もいるでしょう。だが「保守」とは「復古思想」ではありません。復古というのは単に昔に戻ればいいという考え方です。

 人間が不完全であるということを前提とした思想が保守であるとするならば、人間は過去においても不完全であった。それゆえ過去の一点に戻ればすべてうまくいくというような「保守思想」は取れません。なぜならば昔には昔の問題があったでしょう。 

 また今生きている人間も当然不完全なものだから、「今のままが一番良い」ということもあり得ません。例えば過去に、どれほど素晴らしい社会保障制度があったとしても、昔のままその制度を運用していては、人口構成などが変わってくるのでうまくいかなくなるでしょう。その制度の趣旨を生かしていくためにはむしろ、変わらなくてはなりません。しかし理想的な体制を目指しても、未来もまた、不完全な人間によって営まれるわけですから絶対に理想の社会は完成しません。世界では毎日、様々な問題が起こり続けています。それに永遠に対応し続けていくのが人間の宿命なのです。

 それでは一体我々はどうしたらいいのでしょうか。その時に範を求める先は「過去の厚み」の中です。それを踏まえて多くの人たちが積み上げた経験値に学びながら、「漸進的な改革」をしていこうというのが保守の発想でしょう。それが 「Reform to conserve」(保守するための改革)…つまり大切なものを守るためには漸進的に変わらないといけないということなのです。
 RIも、ロータリアンも、今一度ハーバート・テーラーの言葉の意味をかみしめる時ではないでしょうか。

(2021.06.19)

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