ロータリアンの広場


『孤独なボウリング(Bowling Alone)』
会員減少の一考察
2510地区 PDG 塚原房樹(札幌東)
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2510地区 塚原房樹PDG

 刀根PDGによると、「欧米諸国を初め、日本はロータリーの会員減少が止まらない状況が続いておりますが、特に、米国の状況は目を覆うばかりであり、1994年の421,823人をピークに、一貫して会員数は減少し、2021年7月現在、ピークの67%にまで減少し、ついに会員数は28万3千人になった」そうです。
 米国のロータリーの衰退について、いろいろな原因があるでしょうが、一言でいえば、人々が集まって合議する場、つまり国家と個人の間にある「中間領域」が縮小されつつあること」だとアメリカの政治学者パットナムは警告しています。
 彼はこの「中間領域」を「ソーシャル・キャピタル」(社会に必要な資本)とみなし、それが分厚い社会ほど社会の効率性を改善できると述べ、それこそが信頼、規範、ネットワークといった社会組織の特徴と定義しています。

 そして「ソーシャル・キャピタル」が豊かなら、人々は互いに信用し自発的に協力するし、また民主主義を機能させる鍵となります。では国家と個人の「ソーシャル・キャピタル」(中間領域)とは具体的に何を表しているのでしょうか。
 アメリカは移民社会なので、みんなが共同して何かやろうという意識が強く、特にフロンティア(未開拓の辺境)の厳しい条件の下では助け合って生きていくために、数多くの目的に応じた各種の結社を作りました。また人々の特定の目的を満たすために作られた、市民団体やボランティア団体といったアソシエーション型組織があり、毎日何百万人の米国人が、ボランティア活動を通じて自分の時間と能力を地域社会の利益のために惜しみなく提供しています。ボランティア活動は米国内に広く浸透しており、生活のほぼすべての面で日常的に見受けられます。これらの市民活動を「ソーシャル・キャピタル」(中間領域)といいます。

 問題は,その市民活動が衰退しているということです。しかし実際には,アメリカの市民活動は衰退しているというよりも,変容してきている、と述べる方が表現としてはより正確だとパットナムは言います。彼は、アメリカの市民活動の団体数は1968 年から1997年の間に3倍近くに増えているが、平均会員数は10分の1以下に減少していることを指摘しています。また、「地方組織」のPTA、ボーイスカウト・ガールスカウト、クラブ(ロータリーやライオンズなど)といった伝統的な非営利組織が会員数を減らす一方で,環境組織やAARP(全米退 職者協会)といった近年に設立・発展している「全国組織」では,その特徴として地方に支部基盤を持たないか、脆弱であることを指摘しています。彼はこれらのことにより、レターヘッド(会費納入依頼の手紙やニュースレターを送る専用便箋)の数は増えているが,草の根レベルでの住民参加の機会は逆に減少していると述べています。パットナムは「中間領域」とは「フェイス・トゥー・フェイス」の関係性の中でしか生まれないものと想定していました。
 そして,従来型のボランティア組織やNPOでは、人々の触れ合いが活発であったが、近年増加している「全国組織」ではそうした機会は減少しているため、「中間領域」の衰退へとつながっていると主張しています。また彼は、アメリカ人のボランティア活動のスタイルの変化にも言及しています。近年のアメリカではボランティア活動への参加率は高まっているものの、その中身は大きく変化しているといいます。従来、ボランティアとは地域ネットワークと結びついて行われてきました。しかし近年では、「プロ化」したボランティアマネジメントのもとにリクルート(新会員募集)と官僚支配の組織化がなされており、それはコミュニティ-(地域社会)への関与につながってはいません。このため、結果として「中間領域」は衰退していると述べています。

 さらにパットナムが、自分の国であるアメリカの社会は、この中間領域を失っているということを書いたのが、『孤独なボウリング(Bowling Alone)』という著作です。アメリカの地方都市では、かつてはどこでもボウリング・リーグがあって地域の人たちがボウリング場でリーグ戦を楽しんでいました。ところがいま、地方都市のボウリング場へ行ってみると、中年男性が一人でボウリングをしているだけ、だから「ボウリング・アローン(ひとりぼっち)」なのです。なぜアローンになっているかというと、以前どこにでもたくさんあったアソシエーション(ボランティァ団体)が、ほとんど休眠状態、地域社会の高齢化などもあって、かつての中間領域が機能しなくなっているのだといいます。それがアメリカ社会の政治のポピュリズムにもつながっています。
 また「ボウリング・アローン」のもう一つの原因は、マスメディアの発達により人々は、中間領域に参加しなくなっていくことです。なぜならボランティアに参加するのは面倒だからです。その代わりに様々な情報を直接メディアから受け取ることによって社会の動向などを知るようになり、中間領域は底抜けになっていくだろうというのです。
 パットナムは、ソーシャル・キャピタルの衰退の一因としてテレビの普及が市民相互の交流時間を奪うと指摘しました。さらにソーシャル・キャピタルへおよぼすインターネットの影響に関しては、自身の意見に沿う内容の情報のみを選びインターネット上で接触するため、他者への寛容を招くソーシャル・キャピタルを損ないます。
 アメリカの社会を立て直すためには、もう一度ボランティアという中間領域を作り直し、ソーシャル・キャピタルを分厚くしなければなりません。誰もが「身を寄せる場」を持ち、生きがいを携えて生きることができる社会を作り直す必要があります。思えば、かつてロータリーもフェイス・トゥー・フェイスを重んじる、世界に冠たる社会改良の「ソーシャル・キャピタル」でありました。

(2021.09.29)

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