ロータリアンの広場


ヒューストンの記憶・「道徳律」
2510地区 PDG 塚原房樹(札幌東)
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2510地区 塚原房樹PDG

 前回は、ヒューストンと「ガイア理論」について述べました。今回はヒューストンで「道徳律」が生まれた機縁について触れてみます。ヒューストンといえば1914年にもロータリー国際大会が開かれています。「天にあっては輝く星、地にあっては吾が内なる道徳律」というカントの言葉がありますが、「ロータリー道徳律」は1914年のヒューストンの大会で生まれました。 「ロータリー道徳律」が生まれた経緯を詳細に知るために、シカゴクラブの会員たちの記述による”The Golden Strand”という本を.振り返ってみましょう。

”The Golden Strand”とは、「金色の撚り糸」の意味で副題に「ロータリーとは国際親善をつなぐ金のより糸である」とあります。私がロータリーに入会した45年前は、ロータリーに関する文献で、邦訳されたものはほとんどありませんでした。たまたま”The Golden Strand”の存在を知り、苦労してやっとの思いで原本を手に入れ、辞書と首っ引きで何とか読むことができました。この本には、シカゴクラブの発生から未来へのビジョンまで、会員たちにより熱く語られています。その本の第16章に「道徳律」あり、「道徳律」がヒューストンで生まれた経緯を詳細に知ることができました。 その本によると、1913年バッファロー市で開催された第4回国際大会-は、アレン・アルバートの格調の高い基調講演があり、倫理感に溢れた大会といわれ、その故にインスピレーション大会と呼ばれました。 彼は、『当時のロータリアン同士の取引は、利己的なものをさらに大きくする試みである。個人の利己主義は非常にあさましいが、組織された利己主義は、最も不愉快なことである』、と述べ、その後にロータリーの目的を熱く説いた下記の英文の言葉を結論として締めくくりました。

“The upbuilding of efficiency and the reinforcement of character?this is at once the true meaning and the true purpose of Rotary”

 私はアレン・アルバートの格調高い最後の言葉を、期待を胸に辞書を頼りに読みましたが、「効率の向上と人格の強化?これがロータリーの真の意味と真の目的である」という、まるで翻訳ツールを使って訳したような薄っぺらな訳しか私にはできませんでした。 その数年後、神戸クラブの末積正氏の『決議23-34はロータリーのキイ・ポイントである』という著書により、アレン・アルバートの最後の言葉の見事な訳文に出会うことができました。 その訳文は、「ロータリアン個人の能力の向上とロータリーの特性である職業倫理の強化、これがロータリーの真の意義であり同時に真の目的なのである」と明快に訳されていました。翻訳というものは、その書かれた単語をつなぎ合わせることではなく、 眼光紙背に徹し、行間を読むという「相手が言葉では明確に表現していないけれど、伝えたいと思っている意図をくみ取る」力を養わなければならないとつくづく思い知らされました。

 バッファロー大会参加者の心の中にアレン・アルバート博士のスピーチがはっきりと印象づけられました。素晴らしい演説は、喝采のために再三中断されました。そして具体的な『倫理規範』を、次のヒューストン大会までに作るための委員会が設置されました。委員長にはロバート・ハントが選ばれました。彼は全国のロータリアンからアンケートを募り、分類整理と起案の作業に励み、山のようなアンケートの中から5000語の最初の下書きを作りました。 月日の経つのは早いもので約束の日限が迫り、彼らはその草稿を持ってヒューストン行きの列車に乗り、汗だくになって5000語をさらに500語に切り詰めました。やっと清書が終わった時、列車はゴトゴトとヒューストンの郊外に近づいていたそうです。

 こうしてロータリーが人類文化史上に遺した最大の業績の一つが、ヒューストンの大会で発表されました。1年間の研究期間をおいて1915年サンフランシスコ大会で正式に「道徳律」と名付けられ、公式に採用されることが決定しました。そしてヒューストン行きの列車の中で、汗と暑さにまみれて書かれた言葉がほとんどそのまま採用されていました。これは、シカゴクラブ誕生以来のミクロ的利益交換、すなわち会員の相互扶助の脱皮を明確に文章化したものでした。 1952年にRI理事会により、11か条からなる道徳律は、実質的な配布は中止されましたが、いまだにその職業倫理としての愛の哲学は生きています。しかし、人は複雑なものより単純なもののほうが日常使いやすいものです。道徳律に代わり、RIは「四つのテスト」を推奨し、それが世界中に広められました。 はるか106年前、1914年のヒューストン国際大会で、ロータリーの「道徳律」が生まれたことを知るロータリアンは果たして何人いるでしょうか?

(2022.02.12)

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