ロータリアンの広場


幻の奇書『黄金の輪』
2510地区 PDG 塚原房樹(札幌東)
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2510地区 塚原房樹PDG

 デイビッド・シェリー・ニコル著「黄金の輪」(原著”THE GOLDEN WHEEL”)は奇書と云えよう。奇書とは珍しい書物のこと。限定的な使い方だが「発行部数が少ないなどの理由で入手・閲覧の機会が限られる」書物のことを云う。ニコルはイギリスのロータリー(RIBI)の機関誌「The Rotary」の編集者であった。 500ページを超える1984年刊行の大作で、もっとも権威あるロータリーの歴史分析の書といわれている「黄金の輪」副題「ロータリー物語」が、ロータリー大国の日本で、なぜ今まで一度も邦訳されなかったのであろうか。奇書扱い以前の謎である。 それに引き換え、「黄金の輪」の数年前に刊行されたジェームズ・P・ウォルシュ(ニコルと同じくRIBIの「The Rotary」誌の編集者)の「THE FIRST ROTARIAN」は発刊後の翌年すぐに邦訳されている。ウォルシュはこの本の「序文」で、ポール・ハリスが国際理解と国際協力に果たした偉大な貢献を考えると、その名前が世間にあまりにも知られていないことに驚かされるのである。本書は、人類の恩人の一人についての物語であると、創始者に対する敬愛の念でつづられていて、日本のロータリアンに好感を持って受け入れられている。 それに対してニコルの「黄金の輪」は、邦訳されていなかった。その理由は、かつての植民地アメリカに対する宗主国としてのプライドのせいであろうか。ニコルは始祖ポール・ハリスについても、シカゴで生まれたロータリー運動そのものにも、歯に衣を着せぬ忖度のない意見を述べている。

 当地区の故石垣パストガバナー(東大卒・経済学の国際的権威で、世界各国の大学で教鞭を執られた)は、ロータリー文庫でニコルが著わした ”THE GOLDEN WHEEL”の原著に目を止められ、翻訳を始められた。自分はこれこそはロータリーの歴史の学問的叙述だと思うのだが、日本のロータリアンの中にはこの本にそのような好意的な印象を持たない方々もいるようで、これを普及しようという自分の思いが充分な後ろ盾を得られないのだという趣旨の言葉をもらしておられた。 そして翻訳作業をしているうちに、国際ロータリーという、直接監督権を持ってすべてのクラブを束ねる本部組織がある一方に、 RIBI (グレート・ブリテンとアイルランド)という連合王国内のクラブを束ねる組織の存在があり、大英帝国から独立戦争を経て分離形成された「アメリカ合州国」と、大英帝国の残余地域の様々な道行の経験が、それぞれの地域に、言葉に出来ないある微妙な感情として残存していたという事情があることに、石垣パストガバナーは気が付かれたそうである。これは著者が明瞭に物語の中で示そうとしていることだが、国際ロータリーに必要だった二つの要件、ロータリーの理想を求め続ける心と、そのための組織を維持する努力と、この二つが必ずしも予定調和のようにはいかなかった苦労である。ニコルはそれらをポール・ハリ スとチェス・ペリー、シェルドンという三人の人格・個性と角逐にあると厳しい口調で描いている。 1920年東京ロータリークラブ創立以來、アメリカのロータリー、つまり国際ロータリー傘下の優等生として始祖ポール・ハリス、チェスリー・ペリー、シェルドンを敬愛し、ともに協調路線を歩んできた日本のロータリアンにとっては、イギリスやアイルランドで独自の発展を遂げたクラブ群が、RIに反旗を掲げRIBIという中間管理機構を、認めさせたニコルの物語は受け入れ難かったのであろう。

 2013 年、石垣PDGは志半ばでご逝去され、荒又重雄氏(旧札幌セントラルRC)と菅原秀二氏(札幌大通公園RC)が中心となり、熱心な有志の方々の無私の協力を得て2018年に「黄金の輪」の翻訳が終了した。この「黄金の輪」は最初から最後まで、石垣パストガバナーの遺志を継いだロータリー関係者のネットワークによって翻訳され、出版までたどり着いた限定版である。  巻頭で荒又氏は、ここに国際ロータリー第 2510 地区の皆さまに「黄金の輪」をお目にかけることが出来るようになりましたと述べられている。この本は当地区の宝である。しかし2510地区だけに留めておいてはならない。 「黄金の輪」のサブタイトルに「ロータリーの物語」とある。世界各国には固有の文化や言語や思考や慣習があり、人道的援助活動のニーズも地域によって大きな差が見える。従って、われわれはアメリカ中心の組織管理の中にあっても、自信をもって自分たちの「ロータリーの物語」を、紡いでいくことを今こそ忘れてはならない。 RIは官僚支配の慈善団体となった。我々はいかに処すべきか。そのヒントを探るためにも、今まで邦訳されなかった幻の「奇書」をお読みになってはいかがでしょうか。きっと何かが得られます。邦訳されたものは670ページにわたる長編ですが・・・ 「ロータリー文庫」で「黄金の輪」を検索してください。また源流の会の「アーカイブス」でもご覧になれます。

(2022.03.07)

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