識字率向上(CLEとは)
2002年12月1日 ロータリー・ゾーン研究会発言要旨
2001年規定審議会において、RI理事会はポリオ・プラスが完了するまでは、RIレベルの新たなプロジェクトを設定しないことを強調しました。しかしながら、ポリオ・プラスが一応終了する2005年を目前に控えた2004年規定審議会では、ポスト・ポリオのプロジェクトがRIから提示されることは必定であり、その場合識字率向上がその有力な候補となることが予測されます。
毎回の規定審議会に環境問題が提案されていますが、この問題は各種の国際会議からもわかるように、国と国との思惑が交錯する上、莫大な資金を必要とし、さらに環境問題の結論が「人口問題」につながるため、ロータリーとして簡単に手が出せる問題ではありません。
その点から考えれば識字率向上は、過去のパイロット・プロジェクトの実績から考えても、ロータリーの力を結集すれば成功する確立の高い奉仕活動だといえましょう。
先進国と発展途上国の格差を考えるとき、そのすべての根底に非識字の問題が潜んでいることがわかります。統計や個々の例については、省略いたしますが、一例として、乳児死亡率の低下、平均余命の上昇、産児制限、エイズ予防は、特に女性の識字率向上によって大きく改善されることは明らかです。
読み書きそろばんができることによって、就職の機会は大幅に広がりますし、安定した職業につけば飢餓、貧困、疾病からの脱却も可能になるのです。
シェルドンは1913年の大会スピーチで、「教育とは知識を教えることではなく、その人が持っている能力を引き出すことである」と述べています。識字は誰しもが潜在的に持っている能力です。戦乱、貧困、その他もろもろの事情によってその能力を引き出せずにいる人たちを助ける活動こそ、ロータリーとして最もふさわしい活動の一つではないでしょうか。
ロータリーの識字率向上活動は、後に続く人の道しるべになる意味を含めて、ライト・ハウス・プロジェクトとして、1987年からタイで始められ、1989年には、5年間のパイロット・プロジェクトとして、680,000ドルのロータリー財団補助金がこの事業に投入された経緯があります。
識字率向上に関してはいろいろな技法がありますが、ロータリーが採用している方法は、Concentrated Language Encounter
CLE語学集中講座と呼ばれる技法です。このCLEは、オーストラリアの原住民であるアボリジニと非識字の移民の識字学習として、クイーンズランド大学教授であり、ロータリアンでもあるリチャード・ウオーカーと、タイのソワラク・ラタナビッチ博士が開発した技法です。
ロータリーとユネスコの共同事業として1987年からタイで始められた識字率向上活動が大きな成果をあげ、1992年にはこのCLEによる教育方法がタイ全国の標準的初頭教育方法として採用されました。
現在は、タイが他の国の人々がCLEの技法を学ぶための研修基地となり、バンコックでCLEの研修を受けた人たちが、世界中で識字率向上の活動に従事しています。
ロータリーが始めて識字率・計算能力向上タスク・フォースLiteracy & Numeracy Task Force を立ち上げたのは、CLEの発祥地がオーストラリアであったことから、1997-98年の
Glen Kinross 会長のときからで、General Coordinator をCLEの開発者であるリチャード・ウオーカーが勤めています。
CLEの対象となるのは、
1.小学校における正式プログラム・・タイ、バングラデシュ、ネパール、ブラジル、南アフリカ、フィリピン。
2.成人特に女性のためのプログラム・・エジプト、トルコ、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカ、アルゼンチン。
3.不就学年長児、ストリート・チルドレンのためのプログラム・・エジプト、トルコ、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカ。
4.身体障害者、非識字移民等特別なグループのためのプログラム・・エジプト、タイ、ブラジル、トルコ。
実際の技法
従来の教育方法は、基本的識字教育Basic Literacyとか,認識識字教育Recognition Literacyと呼ばれており、単語を覚える、字を書く、意味を知る、文法を覚える、文章を作るという過程を経る教育方法です。
我々が受けた、日本の典型的な英語教育法を思い浮かべてみれば判るように、長期間勉強を続けたにもかかわらず、生きた英語にならず、途中で落伍する者が続出します。
CLEによる教育方法は、機能的識字教育Functional Literacyと呼ばれています。
初等教育のCLEは、教師と生徒が協力して、ゲーム感覚で短い物語を作り、それを語ることから始めます。Big Bookと呼ばれる大きな紙にそれを書き、それぞれの言葉を覚え、その言葉の文字と発音が一致するようにします。これを繰り返すことによって自分で文章が書けるようになります。
成人向けのCLEは、実生活上の技術と組み合わせて字を覚えます。たとえば「ケーキの作り方」というテーマで、実際にケーキを作りながら、レシピを通じて言葉を憶えます。
短期間で識字能力を高め、かつ、落伍者がほとんど出ない特徴を持っています。
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