ロータリーで定められた最初の約束ごとは、一人一業種で定例の会合を開くということでした。定例の会合が、始めは二週間に一回であって、しばらく経ってから週一回に変更されたことを考えれば、一人一業種制こそが、ロータリーの原点であったと言うことができます。
一人一業種制が定められた本来の理由は、同業者を排除することによって真の親睦を保とうとしたためですが、現在では、それに加えて、少しでも多くの業界に、ロータリアンを大使として送り込んで、ロータリーの奉仕理念を広めるために、一業種に一人と限定していると考えられています。
一人一業種制の基本となるものが、職業分類表です。チャールス・ニュートンが残した資料(1910年頃の資料と思われる)によれば、当時の職業分類は、Attorney
弁護士、Banker 銀行家、Auditor 会計監査人、Pattent Attorney 特許弁理士、Undertaker 葬儀屋のように、職業そのものの名前ではなく、その人の職業上の役割を示した分類になっていることが特徴的です。当時の興味ある職業分類として、Street
Cleaner 道路清掃人とか、Cash Carriers Maintainer キャッシュ・キャリア管理者などをあげることができます。
1924年に、RIから標準職業分類概要と標準職業分類表がだされ、人間の生活に欠かすことができないものを大分類とし、それに付随するものを小分類に細分化すると共に、すべての職業分類は、その人自身ではなく、その人の職業を表すべきであるという見解に統一されました。
すなわち、Baker パン屋さんではなく、Baking パン製造、銀行頭取ではなく銀行業というように定められました。しかし、1954年の標準職業分類表を見ると、専門職種については、Sirgeon
外科医、Dentist 歯科医となっており、Surgery 外科、Dentistry 歯科ではないので、この定義も相当混乱していたものと思われます。
なお、この標準職業分類表に収録されていない職業は、ガバナーに届け出て、ガバナーがRI本部の承認を得て、始めて使うことができるとされており、この標準職業分類そのものが、アメリカを標準として作られたものであったため、イタリアのベネチアングラス製造とか、日本の日本刀研磨などの職業分類がなかなか承認されずに困ったという逸話が残っています。
ところがRIは、1963年に職業分類概要を発行して以来、標準職業分類表の発行を含めた一切の作業を中止し、現在に至っています。毎年のように起こる新しい職業分類の追加や更新が、RIの事務処理能力を超えたためとも言われますが、一人一業種制の根幹とも言える職業分類の管理を放棄したRIの責任は大きいと言わざるを得ません。
従ってそれ以降は、各クラブが独自に職業分類表を作らざるを得なくなると同時に、あらかじめ作成した職業分類表に従って、会員増強を図るのではなく、入会した会員に当てはまる職業分類表を後から作るという、本末転倒ともいえる状態が続いています。
なおこの時点から、従来の大分類、小分類の区分はなくなり、職業分類の分類方や名称を含めたすべてのことが、クラブの自由裁量に任されることになりました。現在、手続要覧に記載されている職業分類に関する項目は、すべて、1963年以前の取り決めであり、たまたま抹消されずに残っていると解釈すべきでしよう。
RIは職業分類の管理を放棄してクラブにその責任を転嫁した手前、クラブがどんな管理をしようと文句がいえず、クラブはクラブで、会員増強という大義名分のために、職業分類の枠を勝手に拡大解釈をするという悪循環に陥っているのではないでしょうか。同じ業務をしている銀行を、工業銀行、商業銀行、外為銀行としたり、民事弁護士、刑事弁護士、国際弁護士に分けて、職業分類を細分化したり、本来なら本人が選択すべきシニア・アクティブ会員制度を強制的に移行させて、一人一業種制度を実質的に崩していく風潮に、ロータリーの行く末に不安を感じる人も多いと思います。
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