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炉辺談話(175)

國際紛争とロータリー

初期のロータリー運動が著しい勢いで発展し、またたく間に全世界に広まっていった背景には、全ての会員を平等に扱い、会員に差別感を抱かさなかったことがあげられます。
民族や国籍や宗教の差を超越して、ロータリアン相互の深い親睦と友情の関係を作り上げることに重点がおかれました。多くの移民を抱え、人種と宗教の坩堝であるアメリカや、多種多様な民族が入り交って多彩な生活様式を営んでいるヨーロッパにおいて、仮に、政治や宗教をロータリーの中に持ち込んだり、その問題を議論したとしたら、ロータリーで育んだ友情もたちどころに消え去ったことでしょう。

1917年、当時のRI会長アーチ・クランフの提唱によって、「人間を育てる教育のための奉仕基金」としてアーチ・クランフ基金(現在のロータリー財団)が創設された際、第26代大統領テオドール・ルーズベルトは次のようなメッセージを寄せています。


私は政治上の堅い約束や同盟を信じていない。むしろ、RIのような団体が持っている理念の方を信じる。国と国との利害があい反し、意見が食い違った時には、いかなる同盟や条約があっても、友好的な関係を保つことはできない。お互いの国民が理解と共感を持ってさえいれば、両国政府間の同盟など不必要である。RIを組織するような人々の交流は、確実に相互理解を深めるに違いない。

1921年にロータリーの国際大会が始めてアメリカを離れて、スコットランドのエジンバラで開催されたことを記念して、「奉仕というロータリーの理想に結束した職業人の世界的友好による理解、善意および国際的平和の増進」という国際奉仕の考え方が発表され、1922年ロスアンゼルス大会で。綱領の第6項目として正式に明文化されました。その後度重なる綱領改正にも変更削除されることなく現在に至っています。

即ち、ロータリーの国際奉仕の基幹となる思想は、国家、思想、宗教などの要素が複雑に入り交じって、現実には一つとはいえない世界を、ロータリアンの 親睦に基づいた相互理解によって一つのものにして、恒久の世界平和を目指そうとするところにあるのです。


<国の法律、習慣に対する批判>

ロータリアンのあいだに、理解と親善を促進するに当って、ある国において非合法とされていることが他の国においては合法である場合が多数あること、また、ある国において習慣となっていることが他に国においてはそうでない場合もあること、を認めなければならない。従って世界各国のロータリアンは、これらの事実を認識し、他国の法律や習慣を批判することを慎むべきであり、かつまた、他国の法律、習慣に干渉するような行為もこれを慎まなければならない。

  (1932年RI理事会)

RIが、経済的またはその他の難事の解決に関して、その国の政策やその国以外の国の政策を支持したり援助することは、その国でその政策に反対の立場にあるロータリアンや、その国以外の国のロータリアンにとって受入れ難い場合があることを考えれば、決して好ましいこととはいえない。国事に関する問題はクラブが考慮すべき問題であり、クラブ定款に従ってクラブ自身で処理すべきである。

 (1934年デトロイト国際大会決議)

<国家有事中のロータリー活動>

いかなる国においても、国家有事の際、その国のロータリークラブが、他国と平常のロータリーとしての接触をつづけることが不可能か、またはこれを不得策とする場合には、その国の国民である現在のガバナー、および、または全てのパスト・ガバナーまたは、ロータリアンは常にその国の忠実な愛国者であることを認めて、国家有事の期間ロータリーをその国に保持するために可能かつ得策であると考えられる措置をとる義務を有するものとする。

(1937年RI理事会)


ロータリーが国際レベルの組織である以上、一たび紛争が起ってしまってからでは、RIが事の是非を判定したり、一国の立場を代弁することは好ましくありません。二国間に紛争が起るとき、一方を正とし他方を邪とするのは、何れから見るかによって変るものであり、当事者はお互いに自分の方が正しいと確信して事を進めているはずだからです。
有事にあっては、RIは中立を守らざるを得ない立場にありますし、当事国のロータリークラブとその国のロータリアンは、共に国法を遵守することが要求されますから、相手国のロータリアンと深い友情で結ばれることは事実上困難となります。
世界の恒久的平和を願うロータリーの国際奉仕の理念も、有事のときには、その運動の限界を認めざるを得ないという矛盾をはらんでいるのです。平時ないしは緊張が高まりつつあるときこそロータリーの理想である「奉仕の理想に結ばれた、事業と専門職務に携わる人の世界的親交によって国際間の理解と親善と平和の推進」を目指して努力することで、紛争を防止する抑止力として、大きな成果を収めることができるのかもしれません。

世界平和を実現するために、ロータリーが深く関与した特筆すべき活動として、国連の設立と国連憲章の制定があげられます。1945年、サンフランシスコで行われた国連設立準備会には、合衆国国務省から要請を受けて、RIから11名の顧問団が参画し、国連憲章の原案作製に当りました。その会合に出席した世界各国の代表のうち、 7名の委員長と20名の代表がロータリアンであり、代議員を合せると実に49名のロータリアンがこの作業に参加したと言われています。


国際ロータリーを合衆国代表の顧問として、国連会議に招聘したのは、この偉大なる組織に対する単なる敬意や好意のジェスチャーではない。ロータリーの会員たちが国際理解の推進のために果たしてきた効果的な役割を認めたからであり、その役割を更に続けてもらいたいからである。ロータリーの代表団はサンフランシスコ会議には欠くことのできない存在だったし、皆さんも承知のように、国連憲章そのものや、経済および社会審議会の規約原案の作成においても然りであった。

   ( 1945年 ステティニウス国務長官)


現在の国連は、その考え方や行動が、創立当時とは大きく変ってしまいました。国連が国連軍という軍隊による武力行使によって平和を勝ち取ろうとする実態に直面し、ロータリーが作った専門機関が自立して活動を続けていく経過で、ロータリーの所期の目的と合致しなくなった場合、どのように対処すべきかという問題を考える必要があります。
[平和]という現象は多國間の力の均衡という極めて政治色の強い問題でもあります。国際問題に関するロータリーの対応を時系列で追ってみると、政治的に中立を保ちながら、その時々の時代背景に適応しながら、どのようにして世界平和を実現すべきかに苦悩と努力を重ねた跡がうかがわれます。


<個々のロータリアンの責務>

  1)     愛国主義にとらわれず、自分が、国際理解と親善と平和を推進するという責務を共に負っているものとみなす。
2)    国家的または人種的優越感によって行動しないようにする。
3)    他国民と協調する共通の基盤を求め、これを育成する。
4)    思想、言論、集会の自由、迫害と侵略からの解放、欠乏と恐怖からの解放を享受できるように、個人の自由を守る法律と秩序を擁護する。
5)    どこかが貧困であれば、全体の豊かさを危うくすると認識し、あらゆる国の人々の生活水準を高めようとする措置を支援する。
6)    人類に対する正義の原則を高くかざす。この原則は基本であり、世界的なものでなければならないと認識する。
7)    国家間の平和を推進しようと常に努め、この理想のためには個人的犠牲を払う覚悟をする。

実践されれば、必ず豊かで充実した人生をもたらす倫理的、精神的基本原則が存在すると認識しながら、国際親善の一歩として、あらゆる他の人々の信念を理解する心をかきたて、これを実践する。

(1951, 1953年RI理事会)

<平和への七つの道>

  1.  愛国心の道・・・ロータリアンは、せまい愛国主義を越えて、国家間の理解と親善と平和の推進に対する責任を分担していることを自覚する。ロータリアンは国家的又は人種的優越感をもって行動するいかなる傾向にも反対する。
2. 和解の道・・・ロータリアンは、他国の人々との協調について共通の地盤を求め、それを拡大する。
3. 自由の道・・・ロータリアンは、個人の自由を守るために法と秩序の支配を擁護し、以て思想、言論、集会の自由、迫害と侵略からの自由及び欠乏と恐怖からの自由を享受することができるようにする。
4. 進歩の道・・・ロータリアンは、どこかに貧困があれば全体の繁栄が脅されることを考え、世界のすべての人々の生活水準を向上することを目にした活動を支持する。
5. 正義の道 ロータリアンは、人類に対する正義の原則を支持し、この原則は基本的なものであって広く世界中に行われなければならないことを認める。
6. 犠牲の道・・・ロータリアンは、常に国家間の平和を推進することに努め、この理想のためには喜んで個人的犠牲を払う用意がある。
7. 忠節の道・・・ロータリアンは、国際親善への第一歩として、他人の信条を理解するという精神を強調し、実践し、そして、ある基本的な道徳的、精神的基準が存在し、それが実行されれば、必ず豊かな充実した人生が実現するものと確信する。

(1959年RI発行)

<国法の遵守>

各ロータリークラブは、クラブが存在し、その機能を果たしている国の法律に従うことが期待されている。自国の法律がRI組織規定と矛盾する場合は、関係クラブは必ず理事会に問題を提起し、助言と指導を仰ぐものとする。

(1975年RI理事会