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炉辺談話(176)

職業奉仕活動実践の受益者

ロータリアンはロータリー運動の受益者になれないという話をよく聞きます。ロータリアン子女が財団奨学生になることは出来ませんし、災害救援金を受けた場合、ロータリアンがたとえ被災者であってもその受給者になることは出来ません。ロータリアンはすべての社会奉仕や國際奉仕活動の受益者にはなれないかと思えば、ロータリー親睦活動やロータリー友情交換の受益者はロータリアンだという例外もあります。
これに反して、職業奉仕活動の主たる受益者はロータリアンなのです。

職業奉仕の概念をロータリーに導入したのは、アーサー・フレデリック・シェルドンです。シェルドンは、ビジネスは科学である、科学には法則があり、事業も法則を守って正しい事業経営をすれば必ず発展する。Serviceという原因によって、profitsという結果が得られると説きました。

適正な価格、店主や従業員の接客態度、品ぞろえ、いったん売った品物に対する責任、同業者との関係、そういったすべての問題を含めたものがサービスであり、サービスがいいと顧客が感じれば、必ずリピーターとなって何回もその店を訪れに違いありません。いかにリピーターが多いかが、その事業の発展を左右するのです。当然のことながら、高い倫理基準を満たさなければ、リピーターの獲得は不可能です。

私たちは事業を営むことで利益を得ています。しかしその利益は、決して自分一人で得た利益ではありません。一生懸命働いてくれている従業員、注文通りの品物を納めてくれる下請けの業者や問屋、自分の店から品物を買ってくれる顧客がいるおかげです。したがって、自分が恩恵を受けていると考えられる人すべてに、自分が得たprofitsを適正にシェアをしながら事業を営めば、必ず事業は発展するのです。そして、それを他の同業者が見習えば、業界全体の発展と高い職業倫理基準が保たれるというのが、He profits most who serves bestというモットーの真意です。

物質的相互扶助に端を発したロータリー運動は、直ちにその世界と決別し、シェルドンの奉仕理念に基づいた精神的相互扶助や例会における事業上の発想の交換を通じて、ロータリアンの事業発展に大きく寄与しました。すなわち、職業奉仕活動の実践によってロータリアンは事業の発展という最大のメリットを受けたのです。

最近のロータリー運動は、人道主義に基づくボランティア活動が主流になって、職業奉仕理念の研鑽や具体的な活動はほとんど省みられていません。シェルドンの職業奉仕理念を実践した結果、職業倫理の高揚という効果が生まれるのですが、その理念を省略して、単に職業倫理の高揚だけを強調しても、それは空念仏に終わることは、最近多発している各種業界の不祥事をみれば明らかです。

現在のロータリアンのほとんどは、ささやかな人道主義的なボランティア活動に従事したという満足感は得られたとしても、ロータリー運動に専念することによってメリットを受けたと感じる人は少ないのではないかと思います。メリットがないから、退会者が増え、入会を志す人も少ないというのが現実ではないでしょうか。

ロータリーには、He profits most who serves bestとservice above selfの二つのモットーがあることを忘れてはなりません。He profits most who serves bestの実践によって、事業の健全経営が約束されるからこそ、Service above selfの崇高な精神に基づいた人道的な奉仕活動を心置きなく実践することができるのです。

シェルドンの職業奉仕理念はロータリーの奉仕哲学として完成されたものです。職業奉仕活動を正しく実践すれば、必ず事業が発展するという、ロータリアンとっての最大のメリットがあることを再確認する必要があります。
かつてロータリアンはシェルドンの職業奉仕理念に基づいて、それを具体的に自分の職業に適用するために道徳律を作り、それを自らの事業所や業界で実行することによって栄えてきました。
21世紀の産業構造は大きく様変わりをしています。20世紀の職業奉仕実践例をそのまま踏襲していたのでは、この変化に対応することはできません。今こそ、現代にマッチした職業奉仕活動の実践例を研究して、ロータリアンに具体的なメリットを与える事業経営を考える必要があります。

思いつくままに一・二の例をあげてみます。
ロータリアンには高度な技術力を持った中小企業の経営者がかなりいると思います。特殊金属のメッキ、ミクロン単位の研磨、特殊フィルター、特殊塗料、こういった特別な高度技術を持ちながら、この技術をどう売り込んだらいいのか判らずにいる一方で、こういった技術を提供してくれる会社を探しているメーカーも沢山あるのです。そこでロータリーが、WCSのプロジェクト交換と同じように、双方のニーズをマッチングさせる仲介をする役割を果たすわけです。
ロータリアンの企業に限定してこれを行うと、かつての物質的相互扶助のように世間のひんしゅくを買うことにもなりかねません。ロータリアンは地域の職業を代表しているのですから、地域内の同業者の特殊技術を含めてこれを紹介する役割をになえばいいわけです。この事業を世界レベルで行えば、ロータリアンも地域社会の同業者も、大きなメリットを受けることになります。

余剰人員をかかえている企業がある一方で、特殊技能を持つ人を探している企業があります。特にIT関連には潜在的な需要も、その技術を適切に生かせない人も多いようです。こういった人材バンクの機能を仲介することも、ロータリアンや地域社会の職業人にメリットを与える職業奉仕活動の応用例になるのではないでしょうか。

具体的には、RIに職業奉仕委員会を復活させ、その中に職業情報仲介小委員会を作り、ゾーン・コーディネーターを任命します。人材バンクの機能は地区レベルでも可能ですが、職業情報の仲介は、ゾーンや世界レベルで、プロジェクト交換システムを作って実施する方が効果的だと思います。
ただし、この運動を資金や商品の融通に拡大すると、昔日の物質的相互扶助に逆戻りしたり、万一の場合の責任問題にも発展する可能性がありますので、ビジネス・チャンスの仲介のみに留めておくほうが無難だと思います。