大連宣言
1936年に神戸で行われた地区大会で、大連クラブのロータリー宣言を70地区のロータリー宣言として採択したいという動議が、神戸の直木太一郎によって提出されました。米山梅吉は、国際ロータリーにおいて決定した[ロータリーの綱領]は、一言一句の変更も許されないと述べたのに対して、京都の田辺隆二は、それは英文のことであって、その精神を日本文で表すものがあってもよいと反論し、村田省蔵パストガバナーは、この大連宣言を推奨したのは自分であり、これは立派なものであるから、これを英訳して、[ロータリーの綱領]を改正するように、RI本部に提案したらよいと述べました。結局、大阪の里見純吉の提案によって、この宣言は、ロータリーの綱領の変更ではなく、内容を補足するものとして、大会宣言することで収拾されました。
この[大連宣言]は、大連クラブの古沢丈作が、[ロータリーの綱領]と[ロータリー道徳律]の真髄を、格調高い日本語で適格に表現し、1928年に発表したものであり、東洋思想とロータリーの理念との融和を図る最初のドキュメントとして、高い評価を受けています。
第1. 須らく事業の人たるに先立ちて道義の人たるべし。蓋し事業の経営に全力を傾倒するは因って世を益せんがためなり。ゆえに吾人は道義を無視していわゆる事業の成功を獲んとする者に与せず。
第2. 成否を日うに先立ち退いて義務を尽さむことを思い進んで奉仕を完うせんことを念う。自らを利するに先立ちて他を益せむことを願う。最も能く奉仕する者、最も多く満たさるべきことを吾人は疑わず。
第3. あるいは特殊な関係をもって機会を壟断しあるいは世人の潔しとせざるに乗じ巨利を博す、これ吾人の最も忌むところなり、吾人の精神に反してその信条を紊るは利のため義を失うよりはなはだしきは無し。
第4. 義をもって集まり、信をもって結び、切磋し琢磨し、相扶け相益す。これ吾人団結の本旨なり。しかれども党をもって厚くすることなく他をもって拒むことなく私をもって党する者にあらざるなり。
第5. 徒爾なる角遂と闘争とは世に行なわるべからず、協力をもって博愛平等の理想を実現せざるべからず、しかり吾が同志はこの大義を世界に敷かむがために活躍す吾がロータリーの崇高なる使命ここに在り、その存在の意義またここに存す。
表現が難しくて難解だといわれる方のために、敢えて口語訳をつければ、次のようになります。
第1. 職業人である前に、道義を重んじる人でなければなりません。自らの事業経営に全力を傾注するのは、社会に貢献するためです。従って、ロータリーは、道義を無視して、事業を成功させようという人の味方ではありません。
第2. 事業の成功を考える前に、社会への義務を果たすことを考えて、奉仕に専念してください。自分の利益を考える前に、他人に与えることを考えてください。最も能く奉仕する者、最も多く報われることを、決して疑ってはなりません。
第3. 特別な関係による機会を利用したり、一般の人が決して取らないような機会に乗じて、大儲けをすることは、最も好ましくない行為です。ロータリーの精神に反して、ロータリーの信条を乱したり、儲けるために、道義を踏み外すことほど悪いことはありません。
第4. 正義のために集り、信頼の絆で結ばれ、切磋琢磨し、お互いに助け合いながら、事業を発展していくのが、ロータリーの本来の趣旨です。しかしロータリアンだけを厚く遇して、他の人たちを拒んだり、私利私欲のために集っているわけではありません。
第5. 無駄な競争や争いごとをしてはなりません。お互いに協力して博愛平等の理想を実現しなければなりません。ロータリアンはこの理想を全世界に広げるために活躍しており、これがロータリーの崇高な使命である共に、ロータリーの存在価値でもあるのです。