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炉辺談話(196)

日満ロータリー連合会

1920年に東京クラブが設立され、それに続いて大阪、神戸、名古屋、京都、横浜と、日本国内の大都市に次々とロータリークラブが誕生しました。1927年には、当時日本の統治下にあったソウルに、翌1928年には関東州の大連に新しいクラブが設立され、RIは、これらのクラブ群を70地区として正式に認めました。その後、1929年には満州の奉天とハルピンに、更に1931年には、台湾の台北と海外の拡大が続きましたが、これらのクラブも70地区に属すことになりました。
 韓国と台湾は日本の統治下にありましたから、問題はないとしても、満州が70地区に含まれていたことは、RIが満州を日本と一体のものと認識していたものと考えられます。これに対して、1932年にホノルルで開催された第4回太平洋地域大会で、中国のクラブから是正するようにという提案がありましたが、提案を取り上げる者は誰もいませんでした。(大会に出席した平生釟三郎談)

1931年の満州事変を契機として日米間の雲行きは怪しくなり、1933年の国際連盟脱退によって、それは決定的なものになります。その経過の中で、ロータリーの本部がアメリカにあるという理由で、陰に陽に、軍部や官憲からの圧力を受けることになります。ロータリーはアメリカのスパイであるとか、フリーメーソンであるといった批判に対して、ロータリーのモットーService above selfは滅私奉公であると反論した記録が残っています。
 そういった批判を避けるために、RIBIのようにRIからの中央集権から離れて、国家単位で管理してはという意見がロータリアンの間で起こったため、1935年に京都で開催された地区大会にRI会長代理として出席したサットン元RI会長にその旨を申し入れましたが、色よい返事は貰えませんでした。

翌1936年に神戸で開催された地区大会では、「地区の特殊事情に応じ、ロータリー精神の普及徹底を期するため、RIの機構を地区単位に改めるよう希望する」という決議をしました。同様な提案が東京の地区協議会でもだされましたが、ここではこの機構改革はロータリーの国際的意義を弱めるという理由で否決されています。
 1938年比叡山で開かれた地区協議会において、東京から「RIの組織は中央集権に偏せず、その世界的拡大の趨勢に適応すべく、加入クラブの国情、風俗習慣を尊重し、地方的自治分権に進展するを以って、ロータリーの本義とし、もってその主義目的を全世界に普遍し、人類の福祉に資せざるべからず。故に第70区改正案を研究、作製し、来るべき国際大会に提出する準備を整うべく、研究委員会を組織されんことを提案する。」という提案がだされました。
 この提案には米山梅吉も賛成して、自ら提案主旨の説明をし、異議なく採択されました。これに基づいて、クリーブランド国際大会に提出するために、宮脇富パスト・ガバナーを中心とする研究委員会によって作られたのが、俗に「宮脇案」と呼ばれるものです。


(宮脇案) 日満ロータリーの機構

日満ロータリーの統括機関として、新たに評議員会を設け、その評議員会は左記地区内の会員より選出される9名の評議員(地方小区代表員と呼ぶ)及び日満ロータリー会長と、前期会長及び他の第70区の役員(副会長、幹事、会計)を以って組織し、日満ロータリー会長は評議会会長となる。(但し、幹事は議決権を有せず)

  • 評議員選挙区域 上記9名の評議員は、左記地区内のクラブ会員より選出する。 (1)北海道、樺太 (2)関東、東北 (3)中部 (4)関西、中国 (5)九州 (6)台湾 (7)朝鮮 (8)満州
  • 評議会の権限 この評議会の権限は、日満国際ロータリーの定款並びに細則の定める処により国際ロータリーの事務並びに、資金を統括、管掌する。「但し当該会計年度の日満ロータリーの予算収入を超過する負債を為すを得ず」とする。
  • 役員の選挙方法 日満ロータリーの役員は会長、副会長、幹事、会計及び9名の地方小区ロータリー代表員全部であって、会長は細則の規定により指名し、毎年の区大会に於いて、有権代議員の投票過半数を以って選定し、他の役員は細則の定める処により、指名の上選挙する。区大会に於いて選挙されし会長の姓名は、国際大会に於いて、RIの役員として選挙を受けるため、中央事務局に通告する。
  • 定期大会と臨時大会 区大会は毎年4月15日より5月15日に至る期間内、予め評議会の決定したる日時と場所に於いて開催する。但し特別の事情発生の場合は、評議会は予定の日時と場所を変更することを得る。臨時大会 不測の事情発生の場合は、会長は評議会過半数の承認を経て、臨時大会を召集することを得る。
  • 区大会の組織 区大会は各倶楽部より選出したる代議員を以って組織され、その選出代議員の割合は各倶楽部1名とし、なお毎年4月30日現在の会員数を基準として会員50名に対し1名の割合を以ってし、過半数の端数のあるときは更に1名を加ふることとする。
  • 代議員の出席 各倶楽部は必ず適法に任命された代議員を区大会に出席せしめねばならぬこととし各代議員は大会に於いて各決議問題に対し一票の投票権を有するのである。
  • 無所属代議員 なお、催促の制定により区内に於ける日満ロータリーの各役代表者及び各元会長及びガバナー(但し現在何れかの倶楽部会員たるを要す)は無所属代議員として各大会に出席し提出の各決議問題に対して1票の投票権を有し得るものとす、と規定してある。
  • 日満ロータリー執務章定 「区内各倶楽部の執務は評議会の一般的監督の下に置かれるものとし、評議会はRI理事会に対し義務を負うものとす」という規定により日満ロータリーの対内及び対外執務関係が明らかにされてある。
  • 定款と催促の修正 日満ロータリーの定款と細則に関する修正は、区大会の3分の2の同意により之を行うことが出来るものとして、その修正案は2月1日迄に区大会幹事宛に送達されねばならぬと規定されている。
  • 会費及び使途 日満ロータリーの会員は毎半期金5円を会費として日満ロータリー本部に納付する。而してその使途及び管理は評議会の権限内に対し

  1.    国際ロータリーに対しては毎半期双方の協議の上適当と思惟される金額を支払って種々なる斡旋に酬い。
2.    国際ロータリーより一切の支弁を受けることなく独立会計となる。


1939年に来日したRI副幹事のポーターは、東京、横浜で意見交換をして、宮脇案に一応の理解を示しましたが、その実現の難しさを説くと共に、急いで行動しないようにという忠告をしています。

ポーターの忠告に従って、東京クラブは、芝染太郎幹事を横浜、神戸、京都、大阪に派遣して、意見を集約し、次の結論をだしました。

  1.       国家を基調にした機構は、1927年のオステンド大会で否決されているので、実現困難である。この決定を無効にしたとしても、日満を一つの国家単位とするには数年かかる。
2.       日満の現状を正当なものと認める者が増えているので、この希望は承認されるとは思うが、そのためには、現在の70地区を数区に分割して、これを合体したものを一つのロータリー地域として、自治管理する方が良い。この方法は既にイギリス、フランスで認められている。

 この意見に従って、ガバナーや諸クラブ会長が東京に集まって協議した結果、この案を取りまとめて、1939年の別府の地区大会に提案することになりました。さらに、この別府大会の決議に基づいて、芝染太郎は特派代表として、同年開催されたクリーブランド大会に出席して、RIとの交渉に当たるわけです。
出発に先立って、米山梅吉はRI会長に当てた、次のような親書を、芝に託しています。

まず前会長ウイル・メーニァの「歴史と風俗と習慣とは各国悉く異なれり。故にこれを統一的に取り扱わんとするのは誤りにして、思想上の傾向に適合せしむべく各々自由ならしむべし。」の言を引用し、「東西欧亜では甚だ風俗習慣が違っているが、ロータリーの目的は明白であるから、これを忠実に実現出来れば、他の細項は各区の自治に任せばよいので、ロータリーの開祖ポール・ハリスさえ、ロータリーの到達すべき運命に適応せんとせば、ロータリーは常に徐々に進化し、又或る場合には急進的改革をも必要とすると言っている。大会参列の諸君はこのRI機構の進化変遷に必要に注目し、第70区が提案する機構改正に虚心坦懐検討されんことを希望する。余は急進的改革を希望するのではない。ただその進化を促進し、将来の宿望に適応させる必要を認めるものである。隣邦第79区ガバナー、フォン・セク博士は最近死去したが、その数日前余の所論に共鳴し、一緒に支那のロータリー拡張と永久性のために共同してつくしたいと述べた。」と結んでいます。

この第70地区からの「RIJM設立」についての提案は議案39-9として6月19日の立法委員会に提出されましたが、その際、芝染太郎は米山梅吉から託された前述の書簡を読み上げ、その全文が大会議事録に発表されました。

なお、この提案は審議されることなく、芝によって撤回されました。芝は渡米後、この提案の取り扱いについて、チェスレー・ペリー事務総長やRI理事と何回も非公式会談を重ねましたが、賛否両論がでて結論は得られませんでした。特にアルゼンチン、ペルー、ブラジルはこの提案を機会に、南米における中間管理組織を作ることを考えていたため、RIはこの提案は日満だけの問題ではなく、RIの根本を揺るがす問題だと考えました。もしもこの提案が審議されれば、大会が紛糾することは必至であるとみたRI理事会は、この提案を責任を持って理事会が対処することを確約した上で、芝に撤回を要請し、芝もそれを受け入れたわけです。

以上のような経緯をたどって、この提案はRI理事会の付託となり、1939年7月から、日満地区46クラブが、自治的地域制度の適用を受けることになります。


日満ロータリー連合会規約

第1条              日本及び満州所在左記三区ロータリー総括機関として日満ロータリー連合会を組織す。
東部(第70区) 本州東部(福井、岐阜、三重を含む以東)、北海道、樺太
西部(第71区) 本州西部(滋賀、京都、奈良を含む以西)、四国、九州、台湾
鮮満(第72区) 朝鮮、満州

第2条              本会会務の執行は之を委員制度となし左記役員を以って構成す。
会長1名 委員7名
委員は区監督3名、前任監督3名、前任会長1名を以って之に充つ。各区に於いて区監督を選出したる時は直ちに之を本会に報告し、本会は之を国際ロータリーに通告して其の役員たる手続きを完了するものとする。

第3条              会長は本会を統括し委員会の議長となる。

第4条              会長は連合会に属する区内ロータリー会員中より委員会之を選出する。其の任期は1年とする。但し再選を妨げず。会長選出の時期は、連合大会開催の場合には其の会期中然らざる場合には郵便投票に依るものとする。

第5条              本会に幹事及び会計を置く。会計は名誉職とする。

第6条 本会は左記事項を処理する。

  1.  連合会内各区の連絡
2.  連合会内各区と国際ロータリー事務局との連絡
3.  連合会内各区共通会計の統制管理
4.  新設倶楽部承認及び登録手続

第7条            本会内各倶楽部は本会に対し其の会員数に応じ会員1人宛年額17円を支払うものとする

第8条            新倶楽部は入会金200円を本会に支払うものとする。

第9条            委員会は必要に応じ日時及び場所を定め会長之を召集する。2名又は2名以上の委員より委員会開催の請求ありたる時亦同じ。委員会の定数は委員4名以上とする。

第10条        本会は年1回連合大会を開催する。区大会は之に合流することを得。

第11条        本会は年1回連合協議会を招集する。

付則

第1条            本規約は昭和14年7月1日より有効とする。

第2条            本規約実行初年度に限り本会委員の構成並びに会計に関し特別を設けることを得。

第3条            本会は毎月1回連合会会報を発行する。之に要する費用は各倶楽部に於いて別に分担するものとする。