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炉辺談話(208)

フィリピンにおけるCLE  

2680地区がフィリピンにおいて実施している識字率向上(CLE)プロジェクトを視察するために、12月7日から10日まで現地に行ってきました。予想外に素晴らしい現況を見てきましたので報告いたします。

対象地域の概要

2680地区はフィリピン国マニラ広域市ナボタス地区(3800地区内)でCLEによる識字率向上のプロジェクトを実施しています。ナボタス地区は、旧スモーキー・マウンテンのあるトンド地区に隣接したマニラにおける最貧困地域の一つです。この地域には15の小学校があり、32,892名の児童がいますが、このプロジェクトの対象となる1年生は7,111名です。1学級は50−70名編成ですが、貧困のために不就学児童が多く、実際に登校してくる児童は60−70%程度しかいないのが現状です。授業は2交代制で行われ、午前の部は7時から12時まで、午後の部は13時から18時までです。ちなみに中学校は午前6時から12時までと、午後1時から午後7時までの2部制で、何れも土曜日は休校の週5日制です。貧しい家庭の子供たちなので、ほとんどの子供は放課後、家事を助けるために働いています。

小学校1年生児童のほぼ全員はタガロク語だけしか知らず、公用語である英語を理解できません。タガログ語には文字がないため、発音をアルファベットに置き換えて表記します。フィリピンにおいては英語が出来なければ将来の展望はないので、公用語である英語(アルファベットを含めて)を教えるための手段として、まず1年生の授業にCLEを採用することから始まなければなりません。すなわちフィリピンでは全く非識字の学童の識字率向上ではなく、タガログしか話せない(アルファベットを書けない)児童に、英語を教えるバイリンガル方式であることが特徴です。

フィリピンに於ける現地対応

私が昨年度、識字率向上TF東アジア担当委員を務めた関係で、2002年11月に、私と地区国際奉仕副委員長が訪比、更に2003年2月に私と地区WCS委員長が再訪比して、予てからWCSプロジェクトを共同実施しているノースベイ・イースト・クラブとCLEプロジェクト実施の詳細について話し合いを行いました。1988年に私が2680地区国際奉仕委員長を務めた時に、ノースベイ・イースト・クラブと共同で、スモーキー・マウンテンに多目的ロータリー・ビルを建設して以来、このクラブとの協力関係が続いているため、再びこのクラブとの共同事業を考え付いた次第です。

プロジェクトの資金調達は次の通りです。
2680地区DDF                US$7,000
2680地区クラブCash       US$4,000
3800地区 DDF               US$1,000
MG                         US$10,000

合計 US$22,000のプロジェクトをRIに申請し、その後教師派遣費用を巡って若干の査定を受けましたが、このプロジェクトはMG #22765として、4月17日に正式に受理されました。

ナボタス地区の教育委員会とノースベイ・イースト・クラブとの粘り強い交渉の結果、ナボタス地区の正式な教育方法としてCLEを採用することが決定し、最初の段階は、地区内15校の内3校の1年生21クラスで出発し、次年度は更に5校で採用することが決定しました。
本来ならば、教師を研修するリーダーをタイに派遣するのですが、教師を派遣する費用を巡るトラブルが幸いして、逆にタイから教師を派遣してもらうことになったために、費用面も含めて非常に効率的にトレーナーの研修をすることができました。
その後、トレーナーが1年生を担当する21名の教師を研修したり、数多くの教材を作る作業を経て、今年9月の新学期からCLEによる授業が開始されました。

ノースベイ・イースト・ロータリークラブでは、会長William Chuaを始め3名の会員が、3校の責任者となって毎週担当校を訪問して、授業の進行状況を視察したり、アドバイスを与えたりして、クラブが一丸となってこのプロジェクトを援助しており、その真剣な姿には頭が下がる思いがしました。

CLEによる授業の現況

CLEとはオーストラリアのクイーンズランド大学のRichard Walker(パスト・ガバナー)が開発した新しい語学教育法で、ロータリーが識字率向上プロジェクトで標準採用している授業方法です。タイが公的教育にこのCLEを取り入れたために、識字率向上に大きな成果をあげたことは有名な話です。

成人向けと児童向けとは若干異なりますが、日常生活をテーマにして、教師と生徒が対面式で授業を行う、いわゆるグループ・ディスカッション方式を採用しています。成人向けでは、例えば「パンケーキの作り方」といったテーマで、実際にパンケーキを作る作業の中から語学を研修します。児童向けの場合も、日常生活の中からテーマを選んで、教師と児童の会話の中から、発音やスペルを学んでいきます。CLEの効果は極めて高く、これを採用していない学校との差は極めて大きく、英語の理解度は驚くほど高まり、その効果に改めて驚かされました。

一つのテーマについて、月曜日にPhase 1、火曜日にPhase 2と進み、金曜日のPhase 5で終了し、翌週は次のテーマに進む、集中授業です。教材はStarter Book、Small Book、Big Book、その他の補助教材が使われますが、これらは全て教師の手作りであり、教師の負担は極めて大きいように思われますが、教師全員が声をそろえて、非常に手間がかかるが、やりがいのある仕事だと語っていました。21名の教師は毎月1回全員が集まってミーティングを開いて、各校の授業方法のバランスを取るように心がけています。私たちは3校21教室を全て参観しましたが、学校によってテーマや教材こそ違え、統一された授業をしていました。

私たちが授業参観をしたのが月曜日であったため、全ての教室ではPhase 1の授業が行われていました。
North Bay Blvd. North小学校では、「teacher」のテーマで授業が行われていました。最初にタガログ語で自分があなたの先生であることを話し、She is my teacher.と書かれたStarter Bookを示します。教師は、全員に何度もその文章の発音とスペルを言わせた後に、児童一人一人を指名して、その発音とスペルを言わせます。次いで、She teaches me reading.と書かれたBookを示して、同様の作業を繰り返し、最後にはShe teaches me also how to sing and dance.とかなり難しい文章に進みます。私がその晩に見た夢にMy tercher has black ans long hair.という言葉がでるほど、何回も繰り返しながら教えます。翌日のPhase 2以降では、teacherに関する短い文章を各自のSmall Bookに書かせて全員に発表させ、最終の金曜日のPhase 5では児童全員のSmall Bookに基づいたTeacherに関する短いストーリーを完成させて、Big Bookに書き込みます。その過程を経て、児童はスペルと発音と簡単な文法を学びます。そして次の週には新しいテーマを選んで再びPhase 1から始めます。毎週Phase 1から始めることによって、ドロップ・アウトする児童がほとんどいないのが特徴です。

今後の問題点

過去にフィリピンでCLEを採用したものの、1年のみで中止したために、これが定着しなかったという経緯があります。非常に効果的な教育方法なので、これを継続、拡大する必要があります。特にこのナボタス地区はCLEを全校に適用することを決定し、当該地区の行政当局も積極的にこれを進めていく決意を定めているだけに、今後の継続的な援助が必要です。第一期の教師研修は済んだものの、今後数多くの教師を研修する必要があり、更に研修を受けた教師の再研修も必要です。教材の作成も含めたこれらの費用を提供するために、このプロジェクトに対する援助を継続する方法を考える必要があることを痛感しました。

識字率向上は、貧困から脱却するための極めて有効な手段となります。特に女性の識字率向上は貧困からの脱却のみならず、出生率低下、育児、保健衛生、疾病やエイズ予防に大きく貢献します。是非とも、地区やクラブ・レベルのプロジェクトに、積極的に取り入れていただきますようにお願いいたします。