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炉辺談話(218)

ニコニコ箱

ニコニコ箱の起源については、大阪説と東京説の双方がありますが、大阪についてはその詳細が書かれた資料を見たことがありませんので、東京が最初という前提でご紹介いたします。

1936年9月30日、東京クラブの関幸重が、玉川園の孤児300名を招待するために、ありあわせの紙箱を回して募金をしたのがその起源だと言われています。
その後、関が発起人となって毎例会に箱を回して、誕生、祝いごと、慶事に何がしかの喜捨を求めて、この制度がニコニコ箱として定着しました。当初使っていた紙箱は、その後三越に特注した木箱に代わりましたが、その箱にはニコニコ顔の本家本元である恵比寿の顔が彫られていました。
任意の喜捨ですから、その金額は自由ですが、初期の相場は5円で、1950年ごろは500円だったそうです。

アメリカを始め諸外国にはニコニコ箱に類するものとしてFine BoxとChest Boxがあります。Fine Boxは罰金箱で、欠席、早退とかのペナルティを集める制度であり、Chest Boxは目的を定めた募金箱ですから、目的を定めずに募金をする日本のニコニコ箱とは若干違います。
奉仕活動をするための資金集めは、会員了解を得た上で目的を定めて、その目的のために帽子を回すのが諸外国のやり方のようです。その模様をゴールデン・ストランドでは次のように記載しています。


よく好まれる話の一つが、ある男の馬の話である。
シカゴからほど遠からぬ、ジョリエットJolietの近くに住んでいる農夫が、本業の傍らに説教をして回っていた。あるいは、あなたが望むのなら、伝道師が本業の傍らに農業をしていたと言ってもよい。一見したところでは、彼はどちらの活動に対しても、かろうじて生活の足しになっているだけで、成功しているとは言えなかった。しかし、彼は馬という友人を持っており、両方の職業で働くためには、彼の馬に負うところは大きかった。ある日、彼の馬が死んだ。ロータリークラブの1905年の会員、ドクター・クラーク・ハウレーはそのことを聞いて、関心を持った。
次のクラブ例会の時間が済んでから、クラークのまわりでは議論が沸騰し、彼は我を忘れて喋りまくった。ある会員は語っている。
「もし自由の女神をシカゴ湖岸に移動させるための金を頼んでいるとしても、彼ほど熱心ではなかっただろう。」
結局、みんなは彼の向こう見ずな努力を止めるために、彼に歩み寄って、貧しい伝道師兼農夫に新しい馬を買うために、クラブ会員が募金をしようという動議を取り上げて、満場一致で採択された。ロータリーは人道主義に基づく奉仕をしたのである。
          Golden Strandより


日本のニコニコ箱は目的なしの募金活動であり、前年度の実績の範囲内で予算化して、次年度の対社会的奉仕活動の原資にするのが一般的です。義務的とは言わないものの、自分の身に起きたいろいろの喜びごとの度に1000円程度の醵金をするわけですから、あまり抵抗もなく、年間を通じればかなりの金額が集まります。

対社会的奉仕活動を積極的に展開しているクラブにとっては、魅力的な方法ですが、あまり積極的ではないクラブでは、その使い道に困るという現実に直面します。社会奉仕委員会に30万、国際奉仕委員会に30万と予算をもらっても、それを消化しないと次年度の予算に響いてきますから、「・・・に協賛」とか「・・・に補助」とかいった名目で、外部団体に寄付する行為が安直に行われているようです。
最初に寄付を受けた団体は非常に喜びますが、二回目からはそれをあてにするようになります。三回目から当然のこととして予算化し、寄付がないと請求してきます。さらにロータリーが行う寄付行為は1万円とか2万円とかいった金額なので、世間に与えるインパクトもさほど大きなものではありません。

グレン・キンロス元RI会長は、「なぜ、僅かばかりの寄付を他の地域社会の団体にするのですか。私たちは募金を集めて、自分たちで、または他の団体のパートナーとして、プロジェクトを完結すべきです。」と語っています。ここで言う他の団体とは、WHOとかロータリー地域社会共同隊といったロータリーとパートナーシップを持って、共に活動している団体のことであって、行政や行政外郭団体やその他の奉仕クラブのことではないことを付け加えておきます。

決議23-34も他の団体に対する寄付行為を禁じているはずです。他の団体に寄付することで奉仕活動の実践をしたとする悪しき習慣からは決別し、ささやかな奉仕活動でもいいから、自らの力で計画し、募金し、完結するように心がけるべきではないでしょうか。

奉仕活動の実践が低調だと、ニコニコが消化できずに段々と繰越金が増えてきます。その一方でクラブの本会計は逼迫しているので、ニコニコ会計から何らかの名目をつけて、本会計に戻入して消化しているクラブがかなりあるようです。誕生祝の品物は本会計の親睦活動委員会の費用で購入するのだから、誕生祝のニコニコは本会計で使っても良い・・・等々、いろいろと都合のいい解釈はつくものです。

しかし、如何なる理由をつけようとも、ニコニコ会計を本会計に戻入することは好ましい方法ではありません。ニコニコは対社会的の奉仕活動のために集めている寄付金ですから、ロータリアンがその受益者になることはできません。ニコニコを本会計に戻入することは、その額の多少は別にして、ロータリアンが受益者になることを意味します。
クラブの運営費、すなわち本会計は会員が平等に負担して賄わなければなりません。会費負担の平等性が保たれているからこそ、クラブ内における会員の平等性も保たれるのです。ニコニコは対社会的活動に賛同する人が任意に、金額もばらばらに拠出しているわけで、会員が平等に拠出しているわけではありません。従ってこれを本会計に流用することは、会費負担の平等性を崩すことにもなるのです。本会計が不足ならば、取るべき方法は、経費削減か会費値上げしかありません。

目的別の募金を行う諸外国の方式と、目的を定めずに、いろいろな機会を捉えて募金を行う日本の方式の何れが良いかについては判断に悩むところです。いろいろな機会を捉えてあまり意識せずに募金が集まることがニコニコの長所ですが、奉仕活動実践の目的を定めて、そのために計画の立案、資金調達、事業の完結に至る一連の流れの中で実施する目的別募金の方が合理的な感じがしますが、皆さまはどのようにお考えになりますか。