.
炉辺談話(219)

クラブ運営の合理化

最近、会員数が減ったためにクラブの資金繰りが難しくなったという話をよく聞きます。景気のいい時代ならば、安直に会費値上げをすれば済みましたが、この不景気では、会費を値上げすれば、ますます会員減に拍車をかけることにもなり兼ねません。各クラブ共にかなり余裕があるニコニコ箱会計を本会計に流用できないことは、前回お話した通りです。
そこで考えられる手段は唯一つ、クラブ運営の合理化によって経費削減を図るということになります。

まず、どのクラブでも支出の大きなウエイトを占めているのは、クラブ事務局に関する固定費です。
RIから毎年発行されるOfficial Directory(会員名簿、現在はCD化されています)には世界中のクラブの情報が記載されています。大都会の大クラブと、日本のクラブ以外のほとんどのクラブは、クラブ事務局の記載がありません。これは記載漏れではなく、世界中のほとんどのクラブにはクラブ事務局を設置していないからです。すべての事務処理は幹事の家で幹事自らが行っているのが通例です。私はガバナーを終えた1997年の8月に、当時娘が住んでいたワシントン州のプルマンという小さな町を基点にして、付近のクラブを数箇所回りましたが、いずれのクラブにも事務局はありませんでした。すべての事務処理は幹事の役割、受付は親睦委員、出席率計算は出席委員の役割と会務全てをクラブ会員が分担して処理していました。会員もビジターも7$払ってセルフ・サービスの食事をしますが、誰一人として不満を言うものもなく、当然のこととして受け入れていました。

ニューヨーククラブ、シアトルクラブ、シカゴクラブといった何百人もの会員のいる大クラブは事務局を持っていますが、例会の管理はクラブ会員が総出で分担していることは同様で、食事はクーポンを買って現金払いをしています。ちなみにビジター・フィーは大クラブで15-20$、田舎のクラブでは7-8$といったところです。会費は大クラブでも年額1000-1500$、田舎のクラブは7-800$といったところです。従ってアメリカでは会費が高いから、クラブを退会するという理屈は通りません。

クラブ運営の合理化はまず、クラブ事務局を廃止することから始めなければなりません。全世界のクラブをみても150人以下のクラブにはほとんどクラブ事務局がありません。これはクラブの事務処理が幹事と副幹事で行える事務量であることを意味しているのです。クラブ奉仕の委員会がそれぞれの分野の役割をきちんと果たせば、事務局員は不必要です。世界のほとんどの国でそれが可能なのに、日本だけが不可能なはずはありません。
クラブの管理はクラブのメンバーがそれぞれ役割分担をして処理することが当然ですし、ほとんどの団体ではそれが行われているのに、日本のロータリークラブだけが出来ないというのはおかしな話です。クラブ事務局と、事務局員を廃止するだけで、ほとんどのクラブの財政は健全化するに違いありません。
クラブ事務局を幹事宅として、幹事一人では事務量が多ければ複数の副幹事で役割分担をする。クラブ運営に関する諸経費はクラブが負担する。ぜひ、一度トライしてみてください。日本では珍しくとも、外国では当たり前のことですから、できないはずはありません。

次に大きな支出はクラブ週報に関連する費用だと思います。未だに高い費用を払って専任の速記者を雇っているクラブがあるようです。卓話の原点はクラブ会員の事業上の発想の交換ですから、卓話者はクラブ会員であることが原則です。1年に1回回るか回らないかの頻度ですから、卓話者には十分の時間があるはずですし、卓話者は十分の時間をかけて準備する義務があります。その努力をすることで、クラブ例会に魅力を与える卓話が可能となるのです。従って卓話抄録の提出は卓話者の義務と考える必要があります。たまには外部から卓話者を招聘することもあるでしょうが、そんなに頻度は高くないはずですから、これは週報に関連する委員会が役割分担をせざるを得ないでしょう。自発的に抄録を提供してくれる外部卓話者もいますが、これを強制することは失礼になる場合もあります。

週報の印刷費も大きな出費です。これを低減するために、ITを活用することを考える必要があります。メールなりウエブ・サイトを通じて週報を発行すれば大きな費用削減となり、すでに日本国内のかなりのクラブがこの方式を採用しています。残念なことにはすべての会員がITを活用する環境を持っているとは限りませんから、それらの人には暫定的な手段として当面はハード・コピーを渡す必要もあるでしょう。

地区やクラブの情報伝達の手段としてITを活用することは、情報量、正確さ、迅速性、経済性の何れからも、もはや避けて通ることはできない方法です。リーダーの条件は正確な情報を誰よりも早く知っていることにあります。ロータリアンは事業上におけるリーダーなのですから、今後生き残ろうとするならば、ITを活用できることが必要条件となります。
一つのクラブ、一人の会員がこのネットワークに参加しないことが、全体の流れを止めることになりますから、少なくともメールとインターネットを使えるようにすべての会員を教育する必要があります。当面はITに堪能な一部の会員の負担が増えるかもしれません。しかし、全会員がITを操られる時代はすぐそこに来ていると思います。

次に大きな割合を占めているものは、親睦関係の費用ではないでしょうか。クラブによっては親睦活動費として定額を徴収しているケースがありますが、果たしてこれはクラブ会員にとって公平な費用分担でしょうか。ロータリークラブの目的は四大奉仕部門の理念の研鑽と実践であって、親睦を図ることではありません。クラブの和を保つためには親睦が必要ですが、親睦はロータリーの目的ではないのです。クラブの親睦とは、何ごとでも話し合える雰囲気を作ることであり、親睦会やバス・ツアーをするといった親睦活動は補助手段に過ぎません。参加するに超したことはありませんが、特別な事情がある場合は強制してはなりません。従ってこの費用は受益者負担で賄うべきです。

外国では食費はチケット購入による現金払いが当たり前で、会費に含めて徴収しません。この方法は、欠席者に対する会費負担の平等性を守る意味から当然の措置ですが、日本ではその配慮がありません。欠席者が多ければクラブ会計に寄与すると考えているクラブさえあるようです。ビジター・フィーを別途徴収するのと同様に、食費は別途徴収すべきです。
なお、日本ではホテルを例会場として、都会では3000-5000円の食事を採るのが当たり前となっています。ディナーならばともかく、昼食代にそれだけの大金を払うことは社会的な常識からかけ離れているとは思いませんか。世間一般の人たちが、500円か1000円の昼食を食べているのに、毎週一流のホテルで豪華な昼食を食べていては、いくらロータリーの奉仕理念を説いても、ボランティア活動を説いても、世間の人たちからは金持ちのエリートの昼食会としか見られないのも当然です。健康上からも美食飽食は決して良いことではありません。これも一考する必要があるのではないでしょうか。

先日WCSのプロジェクトのためフィリピンを訪れました。1999年に会長を務めていた会員が、今年度は幹事を務めていました。25-6人の会員で大きなWCSプロジェクトを毎年のように実施している非常に積極的なクラブです。
日本では会長を済ませば一丁上がりで、後は長老になったつもりの会員が多く、回ってくる役職もSAAか、革新的なクラブでも情報委員長といったところでしょう。経験豊かな元会長を、幹事として第一線に復帰させるという思い切ったクラブ役職のローテーションによってクラブが活性化することは言うまでもありません。人数の少ないクラブでは試みる価値があります。

思いつくままに羅列してしまいましたが、これらのことを実行すれば、クラブ会計が健全化すると同時に、クラブ全体の活動が活性化することは疑う余地はありません。その移行期には一部の会員の仕事量は増えるかも知れませんが、自らのクラブは他人の手を借りずに自らの奉仕で賄うべきであり、それがクラブ奉仕の実践と考えるべきではないでしょうか。