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炉辺談話(239)

規定審議会開会前夜

 もう10日ほどで2004年規定審議会が開催されます。日本からは各地区1名総勢34名の代表議員がこの会合に参加し、1週間かけて500近い提案を審議することになります。不肖、私が座長を務めることになり、今までに3回の勉強会を開催させていただいたお陰で、ほぼ全提案の内容を把握することができました。
審議される提案については、規定審議会のページに収録していますのでご覧いただくとして、今回はこの中で議論が沸騰するであろうと思われる案件についてご紹介してみたいと思います。

先ず、第2モットー He profits most who serves best の去就がどうなるのかという問題です。ロータリーのすべてのドキュメントから性限定用語の使用を廃止するという2001年規定審議会の決定に基づいて、RIから He profits most who serves best を One profits most who serves best に変更しようという提案が提出されます。更にアメリカのアラスカからは He profits most who serves best を They profit most who serves best に変更するという提案が、アメリカのテネシーからは第2モットーを廃止して、第1モットーのみにしようという提案がでます。イギリスからは第2モットーと年次会長テーマを共に廃止して、第1モットーのみにしようという提案が8つの地区およびクラブから提案されます。これに対して第1モットーと第2モットーを共に尊重しようという提案は日本の2500地区と2680地区のみというのが現状です。
イギリスからの提案は年次会長テーマも止めるという内容なので、否決される可能性が高いでしょうが、He profits most who serves best を One profits most who serves best に変更しようというRIからの提案は採択される可能性が非常に高いと思われます。欧米系のロータリアンのほとんどはシェルドンが提唱したHe profits most who serves best というモットーこそが、職業奉仕を的確に表したモットーであることを知らず、職業奉仕とは単に職業倫理を高めることだと解釈している人が大半を占めています。すなわち欧米系のロータリアンの大半は、ロータリーには他の奉仕団体にはない職業奉仕という分野があり、その職業奉仕を表すモットーが He profits most who serves best であり、人類愛に基づく社会奉仕や国際奉仕を表すモットーが Service above self だということを理解していないことを意味します。当然、日本の代表議員は何とかHe profits most who serves best というロータリーの歴史的資産をそのまま残したいという一念で、いろいろと対策を練っていますが、結果がどうなるか心配です。

次に問題になる提案はRIから提案される人頭分担金の値上げでしょう。RIは各種のデータを添えて会費値上げの妥当性を訴える事前キャンペーンを展開しているようです。日本などの先進国では会費値上げも止む無しという意見も聞かれますが、途上国からは逆に会費値下げの提案が数多く出されているので、その結果は予測できません。ただし、この会費値上げの提案が否決された場合、現在ですら十分と言えない英語圏以外の国に対する情報提供のサービスが、更に低下することが心配です。

会員増強を優先するあまり、会員の資格条件を緩和し、「善良な成人」のみにして、後の条件をすべて抹消しようという提案があります。この提案に関してはRI理事会も、裁量権のない人が会員なるのは困るという理由から反対の模様です。我々も同感なので、この提案には反対です。

ロータリーは人口問題に対してもっと積極的に取り組むべきだという提案が提出されます。国連の統計によれば地球人口は2050年には89億人となって、地球のキャパシティを越えると予測されています。出生率を抑えるためには識字率向上が最も有効な手段だと言われていますが、宗教的な問題から、人口抑制問題には関わるべきではないという反対意見も数多く出されています。RI理事会も人口問題は政治に関わる問題なので議論すべきではないという考えのようです。

ロータリーの雑誌を廃止して、ウエブによる情報提供に変更すべきだという提案も数多く出されています。将来、紙からデジタル・デバイスに代わって行くことは容易に予測出来ますが、IT環境の整っていない国に住んでいる人、IT技術に堪能でない人がいる限り、直ちに転換することは不可能だと思います。RIはウエブサイトを通じて充実した情報を提供しています。しかし、非英語圏のウエブ・サイトは貧弱そのものです。これは地域雑誌には購読の義務があるために購読料を徴収出来ますが、ウエブサイトにはその規定がないため、製作維持をする費用が捻出できないためです。そこで、2680地区からは、地域雑誌と同様に、理事会の決定によってウエブサイトの費用を徴収する提案を提出しています。その費用は地域雑誌の購読料の10%程度ですからそんなに負担がかからず、これが採択されれば非英語圏のウエブサイトを通じた情報提供は飛躍的に向上するものと思われます。

世界平和奨学生の選考に当たって、なるべく発展途上国の学生を優先的に採用するようにという提案が2640地区から出ています。世界平和奨学生のほとんどがアメリカ人であるという現状を改善して、紛争当事国や発展途上国からの学生を優先することによって実効をあげようということであり、まことに当を得た提案だと思います。

地区大会の期間や時間を短縮するようにという提案が数多く提出されています。実はこの提案は2001年の規定審議会で2680地区から提案し、私が趣旨説明をしたのですが、僅少差で否決されました。しかし、ドクターマン委員長が、その趣旨はよく分かるので理事会で検討すると発言し、その後のロータリー章典を見ると、以前はShould be( ・・しなければならない)と書かれていた「地区大会の要件」がrecommend(要請する) に変更されたという経緯があります。ただし、この変更は現在の手続要覧の日本語訳には反映されていません。すなわち現在の規約でも、地区大会の期間や時間を短縮することは可能なのですが、費用や参加者の利便を考えて地区大会の期間や時間を短縮し、そのことが明文化されれば、更に良いと思います。

RI会長に対する謝意を廃止し、報酬を受けることができるのは事務総長のみに限定しようという提案が実に沢山の地区やクラブから提案されています。2001年の規定審議会で、今まで内々で支払われていたRI会長に対する謝意(現金)をRI細則上で明文化する代わりに、その金額を公表するという提案が採択されたことを請けて、その金額が公表されたところ、余りにも多額だったので、世界中のロータリアンから非難の声があがり、今回の提案になったものです。なおこの提案に関連して、金額を減額して支給しようという提案も幾通りかでています。

ガバナー・ノミニー、理事指名委員、規定審議会代表議員を指名する委員会を一元化しようという提案がRIからでています。いままでばらばらだった指名の方法を、この指名委員会に一元化して指名するもので、非常に分かりやすい方法です。なお、この指名委員は特別の定めのない限り、過去5代のパスト・ガバナーが勤めるように規定されており、更に指名委員は指名を受ける役職に就くことができませんので、ガバナーを務めてから5年以内の人は、理事指名委員、規定審議会代表議員になれないことになります。特に規定審議会代表議員はなるべく至近にガバナーを勤めた若くて元気な人に出てもらいたいだけに、問題のある提案です。

ロータリー財団は政治的中立性を保つべきだという提案が出ています。ロータリー財団はアメリカのイリノイ州で認可された団体であり、イリノイ州の法律の下で運営されています。すなわちその使途はアメリカの連邦法やイリノイ州法によって制限を受けるため、アメリカの利益に反する使い方はできません。イランはアメリカの敵対国ですからイランの地震にロータリー財団の金はびた一文使わなかった理由は、そのためです。同様の理由からイラクや北朝鮮に対してもロータリー財団の資金を使うことはできません。世界のロータリアンから集めた浄財が、一国や一州の考え方でその使途が制限されることはおかしな話なので、ロータリー財団本部を政治的に中立な国に移して、一国の方針に支配されることなく、ロータリー財団の独自性を発揮すべきだという提案です。

ポリオ・プラス終了後に何をすべきかという提案も数多くだされています。
安全な飲料水を提供するプロジェクトを実施すべきだという提案が最も多く、その他疾病対策(特にエイズ対策)や貧困対策が提案されている一方で、新たなプロジェクトを創出すべきではないという提案もあります。RIはポリオ・プラスが終結するまでは、新たなプロジェクトに着手しないという考え方なので、この規定審議会には新しいプロジェクトは提案していません。

以上ご紹介したような提案に対して、激しい議論の応酬が1週間に亘って繰り広げられます。