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炉辺談話(24)

 このクラブに名前をつける段階で、最初に提案された名前はブースタークラブBooster Club(推進者)でした。
「ブースター? 電圧の上昇?」
 辞書には、前進を助けるために、下から持ち上げるか押し上げると言う意味が書かれています。悪くない! 現在のアメリカにぴったり当てはまる言葉です。どんな都市や町にある大学や高校には、ブースター組織があり、その種類は20以上にものぼっています。
 しかし、もっと思慮深い考え方が、クラブにその名前をつけることを思い留まらせました。
 「我々はシカゴを押し上げることに関心があるわけではないし、いわんやこのクラブを押し上げることでもありません。すでに、そのために商工会議所という特別な組織ができています。クラブ会員の望んでいることは、世間の注目をあびている彼ら自身を“押し上げる”ことであり、相互取引によってより多くの金を稼ぎ、毎週の例会でささやかな楽しみを持つことなのです。」と、ポールは反対しました。

 「ラウンド・テーブル・クラブthe Round Table Clubはどうだろう」と、誰かが提案しました。これもまた悪くはありません。アーサー王の円卓会議は、重要な人が参加することで有名であり、高貴な香りすら漂ってきます。しかし、その名前には新鮮味がありませんし、新しい国の活力溢れた都市には相応しいとは思えません。

「コンスピレーターズ・クラブ(共謀者)the Conspirators Clubと呼んだらどうだろう?」
 皆はその名前について考えながら、長い間、沈黙の時が流れました。ついに、たまり兼ねた一人が尋ねました。
「なぜ 共謀者なんだい? 我々は何を共謀しようとしているのか? その言葉は、普通、あまり良くない行為を意味すると思うんだが。」
 ポールは必ずしも、そんなふうには考えませんでしたが、その言葉の先入観が、クラブ本来の趣旨を混乱させるかもしれないと考え、その意見に賛成しました。

 ザ・シカゴ・フェローシップ the Chicago Fellowship、ザ・ブルー・ボーイズ the Blue Boys、シカゴ・サークル Chicago Circle、ザ・レイク・クラブ the Lake Club、FFFクラブ、メン・ウイズ・フレンズ Men with Friends、フレンズ・イン・ビジネス Friends in Business、トレード・アンド・トーク・クラブ Trade and Talk Club、ウインディ・シティ・ラウンドアップ Windy City Roundup 等々、沢山の名前が卓上を賑わしましたが、決定的な名前を提案する人は誰もいませんでした。

 最後に誰かが言いました。
「我々はお互いの事務所で、一種のローテーションを取り決めて、会合を開いている。ロータリークラブRotary Clubと呼んだらどうだろう。」
 残念なことには、その言葉を誰が発したのかを、幹事は記録していませんでした。ひょっとしたら、ポールの言葉だったのかも知れません。
 しかし、1年後には、名前を決めた詳しい経過を覚えている人もいなくなり、現在は、そんなことがあったという事実を知っている人すらいなくなってしまいました。    

[ゴールデン・ストランドよりアレンジ]