第二モットー攻防記
今回の規定審議会のハイライトは、なんと言ってもHe profits most who serves best がロータリーの第二モットーとして残ったことです。
2001年規定審議会の最終日にRI理事会から提案された決議01-678「ロータリーのすべてのドキュメントやステートメントから性限定用語を削除する」が採択されたことを受けて、RI理事会は第二モットー
He profits most who serves best に He が使われているという理由から、その使用を停止しました。その後、日本からの予期せぬ猛反対に驚いたRI理事会は、第二モットーの使用停止を撤回しましたが、2004年規定審議会には正規の手続きを経て、このモットーを変更又は廃止しようという動きが強まることは必至でした。
事実今回の規定審議会には、He profits most who serves best を One profits most who serves
best に変更するというRIの提案を始めとして、He を They に変更しようという提案や、第二モットーそのものを廃止しようという提案等が十数件提案されました。
シェルドンが提唱したこのモットーの profit の真意を誤解している人々の勢力と、ロータリー運動と公民権運動とを取り違えたり、ロータリー運動をボランティア活動だと理解している人々の勢力が、今やロータリアンの多数派を占めるようになってしまったのです。
これに対して、二つのモットーを共に遵守しようという提案は日本からの2提案のみであり、大きな危機感を持ってこの規定審議会に望まざるを得ませんでした。
私たち日本の代表議員団は数回の会合を開いて、全員のコンセンサスを得た上で、第二モットー存続に向けて協力することを確認しました。
会議2日目に、RIから He profits most who serves best を One profits most who serves
best に変更するという動議が提出されました。これに対して私は下記の反対演説を行いました。
「私はこの提案に反対いたします。このモットーはアーサー・シェルドンによって提唱されたロータリーの職業奉仕理念を明確に示したものであって、このモットーの原文そのものが、ロータリーにとって極めて重要なものなのです。
このモットーの一語一句は、ロータリーの職業奉仕理念として、ロータリアンの心に深く刻み込まれてきました。このモットーの中に He が使われているという理由のみで、この大切なモットーを変更しようという考え方は、余りにも短絡的な発想です。
アメリカ国歌の中にも O thus be it ever when free men shall stand という表現があります。アメリカの独立憲章の中にも
All men are created equal や Governments are instituted among men という言葉が使われています。
当時は、 He とか Man といった言葉は人間全般を表す言葉として使われていたのであって、決して女性を差別する意図を持って使われたわけではありません。第二モットーも同様です。
アメリカ国歌や独立憲章はアメリカの重要な歴史的資産として尊重されなければなりません。同様にこのモットーもロータリーの重要な歴史的資産として尊重されなければなりません。このような歴史的に重要なドキュメントは、後世の人がみだりに手を加えるべきではありません。」
ところが、その審議中に One を They に変更するという修正案が提出されました。私はそれに対して、「ロータリーの考え方は I serve
であり、これに反してライオンズは We serve である。He を They に変更することは、主語が複数形になり、これはライオンズの考え方と同じになるので反対である。」と反論をしたのですが、投票の結果修正案が
355 対 130 で可決されて、結果的にはHe profits most who serves best が They profit most
who serve best に変更されるという最悪の結果になってしまいました。
翌日のセッションで、第二モットーを廃止して、第一モットー Serves above self だけにするという動議が提案されました。He が
They に変わったという不満はあったとしても、第二モットーが残っているだけましであり、もしもこれが廃止されてしまっては元も子もないので、私は次の反対演説を行いました。
「私はこの提案に反対します。第二モットーを廃止することは、ロータリーのバック・ボーンである職業奉仕を捨て去ることです。第二モットーがなければ、ロータリーはその特徴を失い、他のボランティア組織と判別がつかなくなります。
第二モットーはロータリーの職業奉仕理念を端的に現したものであり、その科学的、道徳的な実践方法は21世紀の事業と専門職務の人々にも十分適用できるものです。
人道主義に基づいた奉仕活動は大切なことです。しかしロータリアンはボランティアである以前に、事業と専門職務の人々であることを忘れてはなりません。
もしこの第二モットーが廃止されれば、特に日本においては、ロータリーの職業奉仕理念に忠実なロータリアンが大量にロータリーを去る恐れがあることを申し添えます。」
私の演説に次いで、2650地区の宮崎パストガバナーも、同様な趣旨の反対演説を行い、期せずして、「もしも第二モットーが廃止されたら、大量の日本人ロータリアンが退会する恐れがある。」というくだりが二人とも一致してしまいました。
この脅しが効いたのかどうかは判りませんが、投票の結果、この提案は161 対 335 で否決されて、第二モットーの首の皮がつながることになりました。
この日の晩開かれたRI主催の晩餐会で、私は元RI会長ドクターマンの席に呼ばれました。今回の規定審議会で地区大会の日程が1日以上、6時間以上と改正されましたが、ドクターマンが2001年の規定審議会の議長を努めた際、私が「地区大会を1-2日で行う件」を提案したことを覚えており、その思い出話に花が咲きました。2001年の規定審議会ではこの提案は僅差で否決されたのですが、特にドクターマン委員長が発言して、「非常に合理的な提案なので、後日理事会で検討する」と言ってくれ、その後理事会で協議した結果、従来は遵守義務のあった「地区大会の要件」が、要望に変更されるという後日談があります。
パーティの別れ際に、ドクターマンが「日本人は第二モットーにこだわるのか」と聞いたので、「その通り」と答えましたが、その時はその会話が大きな意味を持つものとは気づきませんでした。
最終日の午前中の第二セッションで、He profits most who serves best を存続させるための最後の機会が訪れ、私は下記の動議を敢えて日本語で提案しました。ジョークを交えて関心を惹きたかったことと、発言時間が2分半に短縮されたため、ゆっくりした英語(早口の英語はしょせん無理)よりも日本語の方が多くの内容を話せることと、日本語の方が感情の移入ができると考えたからです。
「議長、私は日本語で話します。今回の規定審議会で私は英語で何回かの提案を行いましたが、残念なことにはそれらの提案はことごとく否決されました。この提案は今回の規定審議会における最後の提案なので、何とか採択してもらいたいと思って日本語でしゃべります。どうぞ皆さん、イヤホーンをつけてください。(笑)
議長、私はロータリーの歴史的に重要なドキュメントやステートメントはその原文を尊重すべきであるという動議を提出します。
私たちは、自分の国の歴史や伝統や文化を尊重しなければなりません。同様に、私たちは、自分が属している組織の歴史や伝統を尊重しなければなりません。従って、ロータリアンとして、ロータリーの歴史的遺産や伝統を大切に守っていきたいと願っています。
この会合が、公民権運動について討議する会合ならば、性差別や少数民族差別について大いに討論する必要があるでしょう。しかし、規定審議会は、いかに正しいロータリーの理念を後世に引き継ぐかという次元で討論しなければなりません。
私たちには、ロータリーの歴史的な遺産として、二つのロータリー・モットー、即ち、He profits most who serves best
と Service above self やその他の重要なドキュメントを原文のまま後世に引き継ぐ義務があるのです。
もし、2001年の規定審議会で採択された決議01-678を遵守するあまり、ロータリーの過去の全ての文献から性限定用語を削除しようとすれば、莫大な費用と時間がかかりますし、それは全くナンセンスな行為です。
ロータリーの歴史的に重要な過去のドキュメントの中には、数多くの性限定用語が使われているのは事実です。数多くの女性がロータリー運動に参加している現在、女性が差別されていると感じるような用語を使わないことは当然です。しかしそのルールを適用するのは、その規約が発効した以降であって、過去のドキュメントにまで遡って適用するのは、法的にも疑義があります。
アメリカ国家や独立憲章の中にも men という表現があることは、2日前にお話した通りです。シェクスピアやディッケンスの作品を読んでも、一般的な代名詞として
He が各所にでてきます。彼らは女性を差別する意図を持って、Heを使ったわけではありません。シェルドンや過去のロータリーのリーダーたちも同様です。
ロータリーにとって歴史的に重要なドキュメントやステートメントは、ロータリーの歴史的な資産として尊重すべきであり、後世の人間がみだりに手を加えるべきではありません。
皆さま方の賢明な判断を期待しております。」
この提案理由説明の後、石垣2510地区PDG、台湾の頼PDGから素晴らしい応援演説をいただきました。賛成は東洋系、反対は西欧系とはっきり色分けされて、その後何名かの反対演説が続きましたが、そのたびに司会をしていたマロニー副議長が、私に反対意見に反論する機会を与えてくれました。これは規定審議会の議事運営から言えば異例のことです。
一しきり討論がすんだところで、ドクターマン元RI会長が緑色の札をかざして、賛成演説に加わり、「日本人がこんなに He profits most
who serves best というモットーにこだわっているのなら、別に反対する必要はない。職業奉仕を表すためのモットーとして、従来通り使ってもらったらいいではないか」と熱弁を振るってくれました。
投票の結果、414 対85 という予想外の結果で、「ロータリーの歴史的に重要なドキュメントやステートメントはその原文を尊重する」という私の提案は採択されました。休憩時間にドクターマンの所に行って「有難う」というと、「良かったね」と言って暖かい握手が返ってきました。至る所で「おめでとう」の言葉をかけられ、将に凱旋将軍のような心地よさでした。
職業奉仕理念が風化し、ボランティア活動一辺倒になっている今こそ、シェルドンの提唱した職業奉仕の原点に立ち返って、ロータリアンを始めすべての職業人にメリットを与える職業奉仕活動を実践すべきであると考えます。特に日本を始め東洋にその考え方を持っているロータリアンが多いことから、このモットーを原文のまま存続することができたことは大きな喜びです。
さて、今回の規定審議会で第二モットーに関連したまったく異なった二つの提案が採択されて、理事会に送付される結果になりました。すなわち、They
profit most who serve best と He profits most who serves best の双方が採択されたわけなので、今後RI理事会がどのような対処をするのかが大きく注目されるところです。
|