奉仕の理想
ロータリアンが好んで使う用語の一つに「奉仕の理想 the ideal of service」という言葉があります。ロータリー・ソングにも用いられていますが、何と言っても「ロータリーの綱領」に多用されていることが、この言葉の重要性を物語っています。綱領の主文には、「有益な事業の基礎として奉仕の理念を鼓吹し」さらに付帯条項の第3には「個人生活、事業生活および社会生活に常に奉仕の理念を適用」、第4項には「奉仕の理想に結ばれた」という表現があります。
残念なことには、この「奉仕の理想」という言葉を具体的に説明したドキュメントは、ロータリーの公式文献には見当たりませんが、これを如何に適用するのかを示した唯一のドキュメントが「決議23-34」です。
決議23-34の序文には「この奉仕の理想の適用を実行することについては、多くのクラブが会員による奉仕にその機会を与えるものとして、さまざまな社会奉仕活動を進めてきている。以下にかかげる・・・」と記載されており、さらに第1条には奉仕の理想を実践に移すためのロータリーの哲学が「Service
above self」であり、その実践理論が「He profits most who serves best」であることが明記されています。
「決議23-34」は単なる決議だとして軽視される傾向が強まっていますが、「奉仕の理想」という文言と、ロータリーの二つのモットーが明記されている唯一の公式ドキュメントなので、その重要性は極めて大と言わざるを得ません。
「奉仕の理想」については、大勢のロータリアンが個人的な見解を発表しています。
イギリスのビビアン・カーター著の「The meaning of Rotary」には、「奉仕の理想は、人間の思考と同じくらい古いものである。たとえ、宗教と哲学との差があったとしても、隣人に対して己を捧げることが道徳上の義務であり、人生のすべての部門でそれを適用することを説いたものであることにはまちがいない。」として、その代表的な表現方法として「黄金律」をあげています。
さらに、この考え方は「黄金律」だけの特有なものではなく、全ての宗教に共有な考え方だとして次のような例をあげています。
エジプト人は、「他人のために良かれと自らが望んだことを捜し求め、それをしてあげなさい」と表現している。ペルシャ人は、「あなたが人からしてもらいたいことを、人にしてあげなさい」と言っている。仏陀は、「他人の幸せを、自ら望んで捜し求めなさい」と述べている。中国の哲学者は、「あなた自身が望まないことを、他人にしてはならない」と言っている。モハメットは、「あなたがしてもらいたくないような方法で、あなたの兄弟たちを扱ってはならない」と命じている。ギリシャ人は、「隣人から敵意を抱かせるようなことをしてはならない」と助言している。 ローマ人は、「すべての人が心に刻み込んでおかなければならない法律とは、あなた自身の社会の人たちを愛することである」と書いている。モーゼの律法には、「あなたが隣人からしてもらいたくないことを、隣人にしてはならない」と書かれており、これだけが唯一の戒であって、その他のものは単なる解説に過ぎない。そして最後に、ナザレのイエスは、「すべて人にせられんと思うことは、他人にもその通りにせよ」と勧めている。
ポール・ハリスは「This Rotarian Age」の中で、ビビアン・カーターの言葉を引用し、さらに、決して金銭に捉われてはならない職業として、法曹家、医師、宗教家などの専門職務の例をあげると共に、その職業態度がビジネスマンにも必要だとして「奉仕の理想とは、物の過程の最初に奉仕を置くものである。奉仕の理想を標榜する者は受けるべき物質に於いてではなく、まず与えるべき奉仕に着眼すべきである。物質を眼前に置けば見通しは困難となる。そしてその最も愚かな方法は金銭に集中することである。」と説明しています。
「子供は砂山作りに熱中する。しかしそれは、砂に希少価値があるからではなく、ほかの子供の砂山より、自分の砂山の方をより高く作りたいからである。子供は砂を積み、大人は黄金を積み上げるが、両者の動機に大差はない。持っていることは、持たざる人の羨望とねたみをより大きくするだけである。この二つのケースでは、少なくとも一つの点で、子供の方が聡明といえよう。砂を貯めても不愉快な影響は残らないが、黄金の蓄積には、ミダス王が晩年になって悲しみを悟ったような、不愉快さが残る。慾深い行為は奉仕の理想とは両立しない。」
アーサー・シェルドンは、「奉仕の理想」という言葉には直接触れていませんが、「すべて人にせられんと思うことは、他人にもその通りにせよという黄金律の言葉は、He
profits most who serves best と同義語である。」と述べています。
なお、この「奉仕の理想」という言葉はロータリーの専売特許ではなく、ライオンズにもJCにもあります。しかし、その意味するところはかなり違うようです。
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