退職者と職業奉仕
アーサー・シェルドンは自分の事業に関連するすべての人の幸せを考えて事業を経営すべきであり、それを実践した人が事業上の成功者となると説き、それを端的に言い表した言葉としてHe
profits most who serves best というモットーを提唱しました。1927年の機構改革によってロータリーの奉仕活動は四大奉仕に分化されますが、このシェルドンの思考は職業奉仕という、他の奉仕クラブにはないロータリー独特な奉仕分野として、現在に引き継がれています。なお、ロータリーの綱領は職業奉仕の目的を、「事業及び専門職務の道徳的水準を高めること。あらゆる有用な業務は尊重されるべきであるという認識を深めること。そしてロータリアン各自が、業務を通じて社会に奉仕するために、その業務を品位あらしめること。」と規定しています。
さて現役の事業から退職したロータリアンは、実質的には職業活動を営んでいないわけですから、事業の経営に直接関与して職業奉仕活動を実践すること、すなわち直接顧客や取引先に対してサービスすることや、従業員に対して教育することはもちろんのこと、ロータリーが定義する職業奉仕を実践することによって自らの事業所が堅実に発展していくことを第三者に実証するという職業奉仕実践例を提示すること自体が不可能になってしまいます。すなわちシェルドンが定義した本来の意味における職業奉仕活動をすることは不可能となります。
現実の職業から離れてリタイアした人は、ロータリーの特徴である職業奉仕活動ができなくなるために、本来ならば退会すべきであるにもかかわらず、従来は職業分類のないパスト・サービス会員として、また現在は、退職前に持っていた職業分類のままで正会員としてロータリアンの身分を保持できるように定められています。
職業を持ってロータリアンとして活躍していたことに対する論功行賞として片付けるのも余りに侘しいことなので、私自身がリタイアしたことを機会に、現実的には職業奉仕活動を実践する場を持たなくなったロータリアンは、本当に一切の職業奉仕活動ができなくなるのか、そんなことはないとすれば、どのような形で職業奉仕をすることが可能かについて考えてみたいと思います。
私は昨年の1月末日を以て、40年来続けてきた眼科診療所を廃院して、晴れて自由の身となりました。日本では国民皆保険となっている関係上、ほとんどの患者は保険診療を希望しますので、保険診療をしなれれば事実上、診療所を経営していくことは不可能です。中には保険診療を断って自由診療のみを扱っている医療機関もありますが、これは例外的存在です。なお、保険診療をしようと思えば、保険医と保険医療機関の資格を登録しなければなりません。
この度の私のリタイアは、単に「田中眼科医院」を廃院して保険医療機関を廃止しただけのことであって、私の医師免許証も保険医の資格もそのままですから、自分の診療所から保険診療によって医療収入を得ることができなくなっただけであって、外国において医療ボランティア活動をすることも、国内においてあらゆる医療活動をすることも自由です。
医師や弁護士などのほとんどの専門職務の人は、リタイアによってその資格そのものを失うわけではなく、その資格を使って職業上の利益を得るという活動を停止しただけですから、ほぼ同様な状態に置かれているものと思われます。
一般のビジネスからリタイアした人でも、ロータリーの綱領上課せられた、事業及び専門職務の道徳的水準を高めたり、あらゆる有用な業務は尊重されるべきであるという認識を深めたり、業務を品位あらしめたりするような、職業奉仕に関する諸活動を、側面から支えることは可能ですし、ロータリーの諸会合において、過去の経験に基づいた事業上の発想の交換をすることや、職業奉仕の理念を説くことは十分可能です。
すなわち、ロータリアンがリタイアした後も、内容的にはかなり制限されるとしても、職業奉仕活動を実践することは可能であるという結論に達します。
さらに、職業奉仕以外の奉仕分野の活動は、リタイア前となんら変わることのない活動が可能であり、むしろリタイア後の方が時間的制約もなくなり、心置きなく、社会奉仕や国際奉仕のボランティア活動に専念することができるでしょう。
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