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炉辺談話(282)

ロータリー・モットーの変遷

○        1910年8月  
第1回全米ロータリークラブ年次大会(シカゴ)で、アーサー・フレデリック・シェルドン(シカゴ・クラブ)が、「He profits most who serves his fellows best」を発表するが、参加者からの反応は芳しくなかった。

○        1911年8月
第2回全米ロータリークラブ連合会年次大会(ポートランド)で、アーサー・フレデリック・シェルドン(シカゴ・クラブ)が、「He profits most who serves best」を発表。全文が大会議事録として配布された報告書に印刷され、ロータリー宣言の結語として採択された。
この大会でロータリー・ターゲットとして採択されたと記載されている文献も多いようだが、それは間違いであり、この大会で採択された「ロータリー宣言」の結語として採択されたというのが正しい。

○        1911年8月
第2回全米ロータリークラブ連合会年次大会(ポートランド)で、ベンジャミン・フランクリン・コリンズ(ミネアポリス・クラブ)が、ミネアポリス・クラブの運営方針として「Service, not self」を発表。これはエキスカーションとして行われたクルージングで単に発表したのみで、大会議事録には、この言葉に関する記録も、大会で採択されたという記録もない。
従って、この大会で、「He profits most who serves best」と「Service, not self」の双方がロータリー・ターゲットとして採択されたという記述は誤りである。
この演説の要旨は、@自らの利益を得る目的でロータリークラブに入会することは間違いである。Aいろいろな機会を通じて、会員同士の取引の機会を広げていく必要がある。B会員同士の取引には限界があるので、今後はその取引を会員外にも広げていく必要がある。ということであって、俗に言われているように、「自己を犠牲にして他人のために奉仕する」といった内容のものではない。

○        1913年8月
第4回国際ロータリークラブ連合会年次大会(バッファロー)で、アーサー・シェルドンは「He profits most who serves best」に関する講演を行う。

○        1915年7月
第6回国際ロータリークラブ連合会年次大会(サンフランシスコ)で、ガイ・ガンディカーのロータリー通解にロータリー・スローガンとして、「He profits most who serves best」と「Service, not self」が記載されている。従ってこの時点では、「Service, not self」が一般的に使用されていたものと思われる。しかし、このロータリー通解には「Service, not self」についての解説は記載されていないので、コリンズが述べた意味がそのまま伝えられているかどうかは不明である。

○        その後の変化
これ以降の何れかの時期に、「Service, not self」が「Service above self」に変化したものと思われる。誰が考え出した文章なのかも不明であり、一部にはアーサー・シェルドンだという説もあるが、それを裏付ける資料は見当たらない。
この文章に変えられた理由について、元来「Service, not self」は会員同士に限定されていた物質的相互扶助を、ロータリアン以外の人たちにも解放しようという、現在の我々から見れば至極当然なスローガンであったにもかかわらず、これを「自己を犠牲にして他人のために奉仕する」という極めて宗教的な高い次元の理念だと誤解した当時の人たちが、「自己の存在を認めた上で他人のために奉仕する」という意味から「Service above self」を作ったものと思われる。しかし、何時の時期に作られたのか、如何なる意味が秘められているのかを示す文献は、現時点では発見されていない。
なお、このスローガンの文章のnot から above への変更をコリンズが了解したか否かについても不詳である。

○        1921年3月
The Rotarian 3月号に「ロータリーの建設者」というタイトルでコリンズの追悼記事が掲載されており、「今や世界で広く使われているロータリー・スローガン Service above self の作者」と記載されている。コリンズが Service, not self ではなく、Service above self の作者として紹介されているのは大きな驚きである。

○        1921年6月
第12回国際ロータリークラブ連合会年次大会(エジンバラ)で、アーサー・シェルドンはRotary Philosophy という演説を行い 「He profits most who serves best」に関する詳細な説明を行う。

○        1950年6月
第41回国際ロータリー年次大会(デトロイト)で、決議50-11 「He profits most who serves best」と「Service above self」をロータリー・モットーとして定めることを提案する件(オハイオ州、コロンバス・ロータリークラブ提案)が修正採択された。
その決議文は次の通りである。
「He profits most who serves best」と「Service above self」は40年間に亘って、ロータリーの基本的な奉仕の理想を効果的に表現するモットーとして、一貫して、広く、国際ロータリーは自然に使ってきた。そして、これらの言葉は、ロータリーの原則と目的の一部として、永遠に一般大衆やロータリアンの心の中に留まり、使い続けられている。ロータリーは、常に、職業奉仕の目的となる基本的な真理は、その利益が物質的な報酬か精神的な健全性や満足感か否かに関わらず、奉仕こそが利益を得る基本であると教えてきた。事実上40年間に亘って、これらの言葉はモットーとして使われてきたのにも関わらず、今まで国際ロータリーによってモットーとして採用されたことはない。第41回年次大会の議を経て、国際ロータリーは「He profits most who serves best」と「Service above self」がロータリー文献や他の場所で使うことができるロータリー・モットーとして採用することを決議する。

○        1976年2月
The Rotarian 2月号にアーサー・シェルドンの「He profits most who serves best」に関する解説が掲載されている。

○        1977年2月
The Rotarian 2月号に「Service above self を我々に提供したフランク・コリンズ」という記事が掲載されている。その内容は彼のスピーチ原稿に基づいた解説と初期のミネアポリス・クラブの例会風景の紹介および、1950年のデトロイト大会において「He profits most who serves best」と「Service above self」がロータリー・モットーとして採択された経緯が記載されている。

○        1989年2月
1989年2月に開催された規定審議会において、決議案89-145 「Service above self という標語を国際ロータリーの第一標語に定める件」が採択された。本提案はService above self を第一標語として指定しようというものであるが、He profits most who serves best も引き続きロータリーとクラブの公式標語として残すものである。

○        2001年7月
2001年7月に開催されたRI理事会において「第二モットー He profits most who serves best を使用停止にする」ことが決定された。これは2001年規定審議会に提案された「01-678 すべてのロータリー用語から性に関する表現を削除することを理事会に要請する件」が採択されたことを受けてRI理事会が取った措置であり、同時に決議23-34の文面からもHe profits most who serves best の文章が抹消されるという事態になった。
規定審議会の決定は、性に関する表現を削除することであって、モットーそのものを使用停止にすることではないという日本人ロータリアンの抗議に、11月に開催されたRI理事会は急遽この決定を撤回した。

○        2004年6月
2004年6月に開催された規定審議会においてHe profits most who serves best の廃止が提案されたが、否決された。しかし He が使われていることに対する反発が強く、このモットーはThey profit most who serve best に変更された。なお、「歴史的に重要な文書や声明は原文を尊重する」という日本からの提案が採択されたことによって、He profits most who serves best が原文のまま残ることになったが、2004年11月に開催されたRI理事会はその提案に従わないことを決定した。

○        2005年2月
国際協議会においてステンハマーRI会長エレクトは、2005-06年度国際ロータリーのテーマとしてService above self を発表した。ただし、このテーマそのものの解説は行われていない。
ステンハマーRI会長エレクトは、「ロータリー・テーマ資料」の中で、「1911年、ロータリーはService above self という標語を熱意を持って採択しました。それは、この標語が、生まれたばかりの組織が発展の途上にある中、その理想を巧みに言い表しているからです。それから95年間、この標語は、私たちが人道的奉仕を遂行し、高い道徳的水準を推進し、国際理解と平和のために活動する上で、根底をなす動機となってきました。来る年度、すべてのロータリアンにService above self の真の意味をじっくり考えていただく機会が与えられます。」と述べている。
しかし1911年にフランク・コリンズが述べた言葉が標語として採択されたという事実はないし、フランク・コリンズが述べた言葉はService, not self であってService above self ではない。またフランク・コリンズがService, not self を述べた真意は、人道的奉仕を遂行し、高い道徳的水準を推進し、国際理解と平和のために活動する上で、根底をなす動機ではないことは、彼のスペーチ原稿を熟読すれば一目瞭然である。
ステンハマーRI会長エレクトが述べたService above self の真意を是非知りたいものである。