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炉辺談話(284)

四つのテストの解釈

四つのテストが作られた経緯やその内容については、すでに数多くのロータリアンが紹介していますし、私のウエブサイトでも「炉辺談話」や「職業奉仕」に記載していますので、今回は、どのように解釈すべきかについて考えてみたいと思います。現行の「四つのテスト」は、東京クラブの本田親男氏の翻訳によるもので、1954年以来、日本人ロータリアンが座右の銘として親しんだ名訳ですが、その一方で、ハーバート・テーラーがこのフレーズを作った意図が完全に翻訳に反映されているか否かについて、疑義を抱いている人も多いようです。そこで今回は、この四つのテストの邦訳について問題提起をしてみたいと思います。

まず最初に考えなければならないことは、この四つのテストは、決して事業の倫理基準や商道徳を高めることを目的に作られたものではなく、倒産の危機に瀕していた調理器具メーカーを再建させるために作られた、極めて現実的な基準だということです。すなわち四つのテストというのは、商取引をする当事者同士が納得ずくで取引できる基準を示したものなので、社会で一般的に適用するとは限りません。
よく、癌の告知や死期の告知に四つのテストを適用すべきか否かとか、醜い女性に、正直に醜いと告げるべきか否かと言った議論をする人がいますが、四つのテストはあくまでも商取引にのみ適応するように作られた基準であることを忘れてはなりません。商取引はシビアなものですから、それを厳密に判定する基準が必要ですが、一般の生活に夢や希望を与えるためにつくささやかな嘘は、人生の潤滑油として必要不可欠なものなのです。

Four-way test  四つのテスト
「事業を繁栄に導くための四通りの基準」ならば、当然Four-way testsと複数形になるはずです。これが単数形であるのは、事業を繁栄に導くためには、四通りの基準を一つずつクリアーすればいいのではなく、四つ纏めたものを一つの基準として、そのすべてをクリアーしなければならないことを意味します。
ロータリーの綱領がObject of Rotaryと単数形であり、四つの項目が渾然一体となって、一つの綱領を形作っているのと同様です。

Is it the truth ?           真実かどうか
「嘘偽りがないかどうか」という意味です。商取引において、商品の品質、納期、契約条件などに嘘偽りがないかどうかは、非常に大切な基準です。
真実というのは、「80%の真実」という言葉が示すように、人間の心を通じたアナログ的な判定であるのに対して、事実とはその事実があったのか、無かったのかの二者択一を迫るデジタル的判定ですから、ここでは「事実」という言葉を用いるべきでしょう。

Is it fair to all concerned ?      みんなに公平か
fairとall concernedという言葉の翻訳に問題があります。fairは公平ではなく公正と訳すべきでしょう。公平とは平等分配を意味するので、例え贈収賄で得たunfair不正なお金でも平等に分ければ、それでよいことになります。
all concernedはallだけが訳されており、肝心のconcernedが省略されています。冒頭に述べたように四つのテストは「商取引」の基準として定めた文章ですから、このconcerned (関わりのある人、関係する人) は「取引先」のことを意味することは明白です。従ってこのフレーズは「すべての取引先に対して公正かどうか」ということを意味します。

Will it build goodwill and better friendship ?           好意と友情を深めるか
goodwill は単なる好意とか善意を表す言葉ではなく、商売上の信用とか評判を表すと共に、店ののれんや取引先を表します。すなわち、その商取引が店の信用を高めると同時に、よりよい人間関係を築き上げて、取引先を増やすかどうかを問うものです。

Will it be beneficial to all concerned ?   みんなのためになるかどうか
Benefitは「儲け」そのものを表す言葉です。商取引において適正な利潤を追求することは当然なことであり、決して恥ずべきことではありません。ただし、売り手だけが儲かった、また買い手だけが儲かったのでは公正な取引とは言えません。その商取引によって、すべての取引先が適正な利潤を得るかどうかが問題なのです。