ロータリーの歴史的文献
初期のロータリーの歴史を記載した文献は、そんなに数多くはありません。もっとも有名なものは、ポール・ハリスが書いた「The Founder of
Rotary 」(1928年出版)、「This Rotarian Age」(1935年出版)、「My Road to Rotary」(1948年出版)でしょう。
The Founder of Rotaryは「ロータリーの創始者ポール・ハリス」の邦題で、This Rotarian Ageは「ロータリーの理想と友愛」の邦題で、共に米山梅吉の翻訳したものがあり、My
Road to Rotaryは「わがロータリーへの道」という邦題で、竹山涼一他2名の共訳による抄録と、「ロータリーへの道」という柴田實訳のものがあります。
The Founder of Rotaryは少年時代からロータリー設立までの回想録ですが、ポール・ハリスの生き様なり、ロータリーの設立なりを客観的に記載したものではなく、極めて主観的に回顧している点が特徴です。
This Rotarian Ageは単なるロータリーの歴史だけではなく、シカゴでロータリーが生まれた背景やロータリーの理念についても触れているかなり完成度の高い作品です。ちょうど世界大恐慌の影響を受けて、シカゴ・クラブが危機的状況に陥ったため、その状態から脱却するために、ロータリー活動全般に対する分析をシカゴ大学社会科学調査委員会に依頼して、その報告書が「Rotary
?」というタイトルで完成した時期と、この本の完成が一致したため、その内容を全面的に書き直す必要が生じたことから、この本の出版が1年遅れたという記録が残っています。
My Road to Rotaryは死の直前に完成したこともあって、乏しい記憶からの回顧や過去を美化した記述が目立つようです。
後に「Golden Wheel」を書いたイギリスのDavid Nichollデビッド・ニコルは、「彼の著作は忠実な歴史の記録ではなく、個人的な見解をしたためたものに過ぎない。特にMy
Road to Rotaryは老人のとりとめもない回顧談である。」と手厳しい批評を加えています。
「Rotary ?」(1934年出版)は私の翻訳があり、「ロータリーの源流・アーカイブス」に収録してありますので、ご一読いただくと、第三者の目から見た、当時のシカゴ・クラブやロータリー全体の動きがよく理解できます。ただし、資料の提供を受けたとは言え、ロータリアンではない第三者がまとめた文献なので、かなりの錯誤があります。しかし、様々な外的・内的要因から苦境に陥っていたシカゴ・クラブを復活させるための報告書ですから、混迷状態にある現在こそ、大いに読む価値のある文献と言えます。
研究熱心なシニア・リーダーの間で、よく読まれている文献が、オーレン・アーノルドの「Golden Strand」(1966年出版)です。これも私の翻訳があり「ロータリーの源流・アーカイブス」に収録してありますし、出版物も若干残っていますので、必要な方はご一報ください。アーノルドは元シカゴ・クラブの会員で、この本の出版後退会しています。物語風にシカゴ・クラブの歴史を非常に詳しく記載していますので、何かと参考になります。ただし、後日、いろいろな資料を集めて書き上げたいわゆる二次資料の常として、かなりの間違いがありますので、その内容をそのまま信じると大変なことになります。特に、1911年にフランク・コリンズがService,
not selfを発表した背景などは、まったく事実と異なった記述です。なお、千種会の「ロータリー発生史」はこの文献の翻訳です。
ハロルド・トーマスの「Rotary Mosaic」(1974年出版)は、歴史書としてはポール・ハリスの作品からの転記の域をでませんが、国際ロータリー会長(1959-60年)としての豊かな経験の中から、ロータリー自身とロータリー活動とロータリアンの進化をいろいろな角度から見て解説を加えた優れた著書です。
ジェームス・ウォルシュの「The First Rotarian」(1979年出版)は是恒正の翻訳したものが出版されています。この本はポール・ハリスの家系に始まって、その生涯とその間のロータリーの歩みが客観的に解説されており、その内容はかなり信憑性が高いものです。
デビッド・ニコルの「Golden Wheel」(1984年出版)はロータリー75周年を記念して、まったく違った角度から、ポール・ハリスの生涯とロータリーの初期の歴史を記述した作品であり、特にイギリス人特有の批判的なまなざしで、ポール・ハリスや初期ロータリー活動を分析している点が特徴的です。現在私が邦訳中ですので、今しばらくお待ちいただきたいと思います。
ポール・ハリスがロータリークラブを作った時、彼は同時に幾つかの親睦クラブに所属していました。当時は雨後の筍のように、至るところで親睦クラブが設立され、それが潰れていった時代でした。ロータリー・クラブがその後成長して120万人もの巨大な組織に発展し、その後100年も継続すると考えた人は誰もいなかったに違いありません。
そのような状態から出発した組織ですから、初期の記録が満足に残っていないことも、いたしかたのないことかも知れません。とにかく、初期のロータリーに関する一次資料はほとんど残っていませんので、断片的に残っている資料をつなぎ合せながら、少しずつ正しいロータリー物語をまとめていかなければなりません。ワン・ロータリー・センターの資料室や倉庫の中には、未整理の膨大な資料が保管されています。その中から宝物を探すためのシカゴ詣でがまだまだ続きそうです。
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