.
炉辺談話(299)

Service before self

私たちが慣れ親しんでいるロータリーの第一モットー “Service above self “の原型が、“Service not self “であることは、ほとんどのロータリアンにとっては周知の事実ですが、それ以外に “Service before self “というモットーが存在していたことを知っている人はほとんどいないと思います。私は“Service above self “という言葉が、何時、誰によって提唱されたかを知るために、過去の国際大会議事録を調べている最中ですが、その過程で、1921年の国際大会において、「国際ロータリークラブ連合会のモットーとなっている” Service above self “、“ Service not self”、“Service before self “をモットーから正式に除外することを決議する件。」という提案がだされていることを発見しました。
 規定審議会が正式な立法機関と定められて別個に開催されるようになったのは1972年からであり、それ以前は国際大会の中ですべての立法案が審議されていました。そして、1921年の国際大会でこの案件が決議案として提案されているのです。

 「国際ロータリークラブ連合会のモットーは ” He profits most who serves best “ であるが、同時に ” Service above self “、“ Service not self”、“Service before self “ もモットーとして使用されている。本来のモットーである ” He profits most who serves best “ はロータリーの精神を哲学的な表現で完全に表したものであるのに反して、これらの三つのモットーは、それを補足説明しているに過ぎない。従って、ロータリーのモットーは ” He profits most who serves best “ のみに限定するように、立法措置を講じるべきである。」と言うのがこの決議案の提案理由です。

審議過程の中で、マルホランドが「“ Service not self ”は何時、ロータリーの正式なモットーになったのか」という質問をしていますが、スネデコル会長は「知らない」と答えています。
 事実、“ Service not self ”は、1911年の国際大会で、フランク・コリンズが即興スピーチの中で使った言葉ですが、大会でモットーとして採択されたという記録はありませんから、スネデコル会長の「知らない」という回答は正しい回答と言うことができます。

この大会でアーサー・シェルドンが提唱した ” He profits most who serves best “ がロータリー宣言の結語として正式に採択され、シェルドンのスピーチ原稿が大会議事録に収録されました。また、フランク・コリンズの “ Service not self ” という言葉も大会参加者に強い印象を与えました。当時は、スローガンやモットーという言葉の定義も確定していなかったので、この二つの言葉は誰が定めたか判らないまま、モットーとして徐々にロータリアンの間に広がっていったものと思われます。

 フランク・コリンズの “ Service not self ” は、彼のスピーチ原稿が公表されなかったことが災いして、間違った解釈をされるようになってきます。“ Service not self ”は自己を犠牲にして他人に奉仕すること、すなわち「無私の奉仕」だと誤解した人たちが、自己の存在を認めた上で他人に奉仕する意味で“ Service above self 超我の奉仕 ”という言葉を作ったものと思われますが、この決議案の中から、これ以外にも“ Service before self ”というモットーも存在していたことが判りました。
 私たちは“ Service not self ”が“ Service above self ”に変化したと考えていましたが、決してそのような単純な変化ではなく、“ Service before self “を含めて、「利己」と「利他」と「奉仕」の優先順位を示すためのいろいろな表現が使われていたのではないかと思われます。

結局この提案は、” He profits most who serves best “ の ” profits “ を巡る論争にまで発展して、” profits “ をロータリーの理念と関連付けて正しく解釈することは不可能なので、“ Service not self ”はどうしても残す必要があるという理由から、否決されました。質疑応答の中で、ホノルルの代表議員が、「” He profits most who serves best “ を、その真意を伝えるように日本語で正しく翻訳することは不可能であり、東洋にこのスローガンを広めることはできない。」と述べているのが印象的でした。
 それを裏付けるかのように、戦前の日本のロータリーの記録の中には ” Service above self “ に関する説明や解説は出てきますが、” He profits most who serves best “ に関する記述はほとんどありません。

この決議案の提案理由の説明や質疑応答を読むと、” Service above self “、“ Service not self ”、“ Service before self “の三つの言葉が無秩序にでてくるので、当時どの言葉が優先的に使われていたのかを推測することはできませんし、スローガンやモットーという言葉の使い方にも一貫性はありません。

結局この大会では、ロータリーのモットーとして” He profits most who serves best “、” Service above self “、“ Service not self ”、“ Service before self “の四つが共に残ることになりますが、1923年の国際大会において、実質的に“ Service not self ”、“ Service before self “が使用停止となり、決議23-34によって” Service above self “がロータリーの奉仕哲学として、” He profits most who serves best “が実践理論の原理として残され、1950年になってやっとこの二つの言葉がロータリー・モットーとして、正式な市民権を得ることになるわけです。

最初からロータリーのモットーとして不動の地位にあった” He profits most who serves best “の存続が危惧される昨今に比して、この当時は” Service above self “の存続が風前の灯であったことに、時代の移り変わりの激しさを感じます。