.
炉辺談話(307)

エバンストン帝国

規定審議会などの正式な立法機関に諮ることなく、重要な案件をRI理事会が勝手に決定してしまう風潮を、1967年の「杞憂論争」の中で、直木太一郎PDGは、「エバンストン帝国」と表現しましたが、最近はとみにその傾向が強まっているように感じます。これは、RI本部がアメリカのシカゴ郊外のエバンストンにあり、20名の理事役員の内の7名がアメリカ人であり、事務職員のほとんど全員がアメリカ人であることから、グローバル・スタンダードで管理されるべきRI理事会が、アメリカン・スタンダードで管理されている結果であろうと推察されます。
1933年にシカゴ・クラブで行われたアンケートでは、共和党の支持者が72.59%、民主党の支持者が8.64%という結果がでており、当時のロータリークラブの会員のほとんどは共和党支持者で占められていました。さらに、現在のジョージ・ブッシュを含めた歴代のアメリカ大統領は2-3名の例外を含めてほとんど全員がロータリアンであることからも、その傾向は現在も続いているようです。その共和党も、現在は、ネオ・コンサーブティブス(ネオコン)と呼ばれる人たちによって大きな影響を受けており、その影響が、共和党の牙城でもあるアメリカのロータリークラブに大きな影響を与えているものと思われます。

ロータリーには二つの奉仕理念があります。その一つはService above selfという、他人のことを思いやり他人のために尽くすという社会奉仕の理念であり、もう一つはHe profits most who serves bestという、他人に対して大きな奉仕をすれば、自らも大きな利益が得られるという職業奉仕の理念です。この二つの奉仕理念を備えていることがロータリーの特徴であって、その何れが欠けても、ロータリー運動は成立しません。
社会奉仕に関する1923年の声明(決議23-34)には「ロータリーは基本的には一つの人生哲学であり、それは利己的な欲求と義務およびこれに伴う他人のために奉仕したいという感情とのあいだに常に存在する矛盾を和らげようとするものである。この哲学は奉仕− Service above self の哲学であり、He profits most who serves bestという実践倫理の原理に基づくものである。」と記載されていましたが、2001年および2004年の手続要覧の「決議23-34」には、He profits most who serves bestという実践倫理の原理に基づくものである。」という文章が削除されて、現在に至っています。これは、2001年の規定審議会の決議01-678に基づいて、RI理事会が第二モットーの使用停止をしたことによるものだと思われますが、国際大会や規定審議会で正式に決定した決議を理事会が勝手に変更することはできません。
決議23-34の最後の部分に (26-6,36-15,51-9,66-49) という記載がありますが、これは何れもこの年度の国際大会の議を経て変更された番号を表したものであり、今回のように規定審議会の議を経ずに、勝手に大切な決議を変更して、それを手続要覧に記載することは理事会の越権行為と言わざるをえません。
特に決議23-34は、ロータリーの奉仕哲学と実践理論の原理を定義している極めて重要なドキュメントであり、この決議からHe profits most who serves bestという大切なロータリーの奉仕理念を削除してしまえば、ロータリーの理念、特に職業奉仕理念を正しく説明することは不可能になります。Heが使われているという理由だけで、このようなロータリーの根幹を揺るがすような重大な変更が、規定審議会の議を経ずして、RI理事会の独断でされることは由々しきことであり、ロータリーの将来に大きな不安を感じます。

2004年規定審議会では40件の決議案が採択されました。その大部分はRI理事会に実施方を要請する案件でしたが、規定審議会で採択されたにもかかわらず、理事会がその実行を拒否した案件が17件にのぼりました。       

その主なものは次の通りです。
1.  地区大会における会長代理制度を撤廃する・・・地区大会への会長代理の訪問が必要かどうか各地区が決めることには同意できない。
2. 地区大会の期間を一日以上3日以下にする・・・現行の地区大会の方針は、柔軟性を許容しているので、これ以上の措置を講ずることには同意しない。
3. ロータリーにおいて、歴史的に重要な声明や文書の原文の用語を保存する・・・時には、現在のRIの特徴を反映させるために歴史的な声明や文書の用語を若干変更することが必要である。従ってこれ以上の措置を講じない。
4. エイズ孤児の養護のためのマッチング・グラントの建設規制を緩和する・・・財団は、個人が生活したり、仕事をしたりする、あらゆる種類の建物を建設するための資金に充当することを停止しているので、この規則を緩和しない。
これ以外にも、規定審議会で採択された数多くの決議案が、RI理事会によって拒否されていますが、これでは何のために規定審議会を開催して、多くの労力を費やしながら討論するのか分かりません。すべての事柄がRI理事会の考え通りに進められるのならば、規定審議会の存在そのものが否定されることになります。

ロータリーはピラミット型の構造ではありません。「最初にクラブありき」だったはずで、何よりもクラブの自治権が優先されなければなりません。RI理事会が示すものは命令ではなく、単なる要請なり勧告に過ぎないのです。
最近、RI理事会が積極的に推進しているものに、クラブ・リーダーシップ・プランがあります。慇懃に、「単なる要請に過ぎない」と断っていますが、これを採用しなければ今にもクラブが機能を喪失してしまうとでも言わんばかりの強引な推奨ぶりです。
機能を喪失した小クラブが、ボランティア組織として生き残るためには、有効な方法かも知れませんが、この考え方の中には、ロータリーが他の奉仕団体と一線を劃した職業奉仕の理念はどこにも見当たりません。今にも潰れかかっているクラブに何故、ロータリー財団委員会や広報委員会が必要なのか、理解に苦しむところです。立派に四大奉仕に基づいた奉仕活動を実践しているクラブにとっては、何のメリットもない委員会構成であり、少なくとも日本国内に於いて、クラブ・リーダーシップ・プランに基づいた委員会構成を採用しなければならないクラブは皆無に近いと言わざるを得ません。リーダーシップの研修の必要性を説きながら、それを担当する委員会を常任委員会から外すという発想にも大きな矛盾を感じます。
何れにせよ、委員会構成を含むクラブ管理運営は、クラブ自治権の範疇にあることを考えて、RI理事会の干渉を排除する毅然たる態度が必要です。