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炉辺談話(326)

エンロンとライブドア

 

エンロンは、1985、ヒューストン・ナチュラルガスとインターノースのガスパイプライン会社二社が合併して設立された、テキサス州ヒューストンに本拠を置く総合エネルギー企業です。1980年代の暮れには、ガス取引に積極的にデリバティブを取り入れて企業規模を拡大し、1990年代後半からは、同じ電力に対して同量の売りと買いを発生させ、単なる帳簿上の操作だけで大きな儲けを得るというあこぎな方法で巨大な利益をあげました。

その一方で、1980年代の終わり頃から、粉飾会計に手を染めるようになり、キャッシュ・フロー会計を利用して、見かけ上の利益を水増しするという方法を積極的に利用して会計上の売上げを増大させていきました。この裏では、取引損失を連結決算対象外の子会社に付け替える簿外損失による見かけ上の会計の確保を行って、1998年には利益に占めるデリバティブ比率は8割を越え、1999年には「エンロン・オンライン」というインターネットによるエンロン株売買のシステムを作り、実質上は赤字であるのに、表面上の売上げと利益を拡大させて、2000年度には従業員2万人、年商1000万ドルという大企業をでっち上げました。

カリフォルニア電力危機を演出して大きな利益を上げたものの、海外事業の失敗などが表面化して2001年夏ごろから株価も低迷を始めました。これを乗り切るためにエンロンは、特別目的事業体と呼ばれるバランスシートに載らない数多くのペーパー・カンパニーを設立して、株価を吊り上げておいてストップ・オプションを行使したり、先物取引、スワップ取引、オプション取引などのデリバティブ使って、秘密裏に決済したり、多額の損失をこれらのペーパー・カンパニーに飛ばすなどの不正経理手段を使いました。
 しかし、2001年秋に発表された第三四半期報告では大幅な赤字に転落し、20011017日、ウォールストリート・ジャーナルがエンロンの不正会計疑惑を報じたことから、122日、遂にエンロンは倒産しました。この倒産でエンロンに投資していた投資家が巨額の損失を抱えることになったり、監査を担当する立場なのに会計粉飾に手を貸したばかりでなく、その証拠隠蔽に関与していたアーサー・アンダーセン会計事務所も解散を余儀なくされました。

エンロンは企業利益を上げることを唯一の目標としており、その目的を達成するためには手段を選びませんでした。多額の政治献金によって得た政界との太いパイプを利用して、全米の電力供給を独占し、カリフォルニア州法の不備をつき、自由競争の原理を逆用して、2000年から2001年にかけて史上最大の経済詐欺を働いてカリフォルニア州を財政危機に陥れました。それは一定の地域には電力の供給を抑え、別の地域には過剰に供給するという方法でした。そうすると抑えられた地域では価格が上昇し、過剰な地域では価格が下がります。そこで安い地域で電力を買い、高い地域でそれを売ることによって、実質の取引量がゼロであるにも関わらず巨額の利益を得るという方法です。しかしそのために電力価格全体がつりあがって、メガワット/時30-50ドルだったものが1500ドルにまで高騰しました。エンロンは2年間に亘ってカリフォルニアへの電力の供給を抑え、意図的に電力不足の状態を作り出して、カリフォルニア州に大きな損害を与えました。この事実を憂慮したエンロン社の副社長シェロン・ワトキンスは、ケネス・レイ社長にその手法の改善を進言しましたが受け入れられず、エコノミストたちがこの真相を知ったのはエンロンが倒産した後に、公聴会でシェロンが証言した時であり、カリフォルニア電力危機におけるエンロンの関与は、その後の自由経済市場における取引のルールの見直しのきっかけの一つともなりました。

以上がエンロン社の取引ルール違反と不正経理の概要ですが、2006年初から世間を賑わしたライブドア事件は、エンロン社の手口をそっくり真似て、投資事業組合と外国に設立したペーパー・カンパニーを通じて、不正経理を行ったものです。これらの二つの会社の共通点は、株価至上主義に走ったあまり、本来は会社の業績を示す指標であるはずの株価を、利益のかさ上げや、損失のとばし、デリバティブによって人為的に上げようとしたことにあります。

私たちは何のために働いているのでしょうか。お金を儲けるため、それとも・・・。
 ロータリーに職業奉仕の概念を導入したアーサー・フレデリック・シェルドンは、1921年に行った「ロータリー哲学」という表題のスピーチの中で、われわれの職業は、金儲けをする手段ではなく、その職業を通じて社会に奉仕するために存在すると述べています。現実にはありえないとしても、パン屋、洋服屋、米屋、銀行と、どんな職業であっても、ある日突然その職業を営む人がいなくなったとしら、社会の人々は大いに困るに違いありません。そういう事態を迎えて初めて、すべての職業は社会に奉仕するために存在することが、判るのかも知れません。

伝票の操作だけで金を儲けるこれらの事業を果たして実業と呼べるのでしょうか。M&Aと書くと格好良く聞こえますが、これは「会社乗取屋」に過ぎません。「会社乗取屋」は社会に奉仕する職業なのでしょうか。ライブドアのやり口をみると、エンロン社のやり方をそっくりそのまま真似て、世間の誰もがやらないような方法で法律の抜け道を潜って、会社の実態の伴わない株式分割をしたり、時間外取引や投資事業組合やペーパー・カンパニーを使って、株の買占めや粉飾決算をしたことが明るみにでています。

「会社乗取屋」を含めた世間の人達が疑義を抱くような方法で巨万の富を築くような事業が、果たしてロータリーが定義する世に有用な職業の範疇に入れるのかどうかを再定義する必要があるのではないでしょうか。ロータリーは、こういった事業をまともな職業だと判断して入会を許した経済団体の轍を踏むようなことがあってはならないのです。

今一度、私たちは「全分野の職業人のためのロータリー倫理訓」を読み直し、自らの事業生活がこれを遵守しているかどうかを再確認する必要があるのではないでしょうか。

全分野の職業人のためのロータリー倫理訓

第1条           自分の職業は価値あるものであり、社会に奉仕する絶好の機会を与えられたものと考えること。

第2条           自己改善を図り、実力を培い、奉仕を広げること。それによって、「最もよく奉仕する者、最も多く報いられる」というロータリーの基本原則を実証すること。

第3条           自分は企業経営者であるが故、成功したいという大志を抱いていることを自覚すること。しかし、自分は道徳を重んじる人間であり、最高の正義と道徳に基づかない成功は、まったく望まないことを自覚すること。

第4条           自分の商品、自分のサービス、自分のアイディアを金銭と交換することは、すべての関係者がその交換によって利益を受ける場合に限って、合法的かつ道徳的であると考えること。

第5条           自分が従事している職業の倫理基準を高めるために最善を尽くすこと。そして、自分の仕事のやり方が、賢明であり、利益をもたらすものであり、自分の実例に倣うことが幸福をもたらすことを、他の同業者に悟らせること。

第6条           自分の同業者よりも同等またはそれに優る完全なサービスをすることを心がけて、事業を行うこと。やり方に疑いがある場合は、負担や義務の厳密な範囲を越えて、サービスを付け加えること。

第7条           専門職種または企業経営者の最も大きい財産の一つこそ、友人であり、友情を通じて得られたものこそ、卓越した倫理にかなった正当なものであることを理解すること。

第8条           真の友人はお互いに何も要求するものではない。利益のために友人関係の信頼を濫用することは、ロータリーの精神に相容れず、道徳律を冒涜するものであると考えること。

第9条           社会秩序の上で、他の人たちが絶対に否定するような機会を不正に利用することによって、非合法的または非道徳的な個人的成功を確保することを考えてはならない。物質的成功を達成するために、他の人たちが道徳的に疑わしいという理由から採らないような、有利な機会を利用しないこと。

第10条        私は人間社会の他のすべての人以上に、同僚であるロータリアンに義務を負うべきではない。ロータリーの神髄は競争ではなくて協力にあるからである。ロータリーのような機関は、決して狭い視野を持ってはならず、人権はロータリークラブのみに限定されるものではなく、人類そのものとして深く広く存在するものであることを、ロータリアンは断言する。さらに、ロータリーは、これらの高い目標に向かって、すべての人やすべての組織を教育するために、存在するのである。

11条  最後に、「すべて人にせられんと思うことは、他人にもその通りにせよ」という黄金律の普遍性を信じ、我々が、すべての人にこの地球上の天然資源を機会均等に分け与えられた時に、社会が最もよく保たれることを主張するものである。


2006年2月24日