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炉辺談話(327)

2006年国際協議会講演 1

率先しよう

ウィリアム(ビル)B. ボイド
RI会長エレクト

ロータリーに関する読み物の中で、私が座右に置いている一冊があります。それは、近頃、手に入りにくくなった貴重なものです。「ロータリー・モザイク」という題名のこの本は、私と同郷のニュージーランドご出身のハロルド・トーマス元RI会長によって書かれました。

今日この場で皆さんにどんなお話をしたらよいものかと思案していた時、私は本書を手に取りました。ハロルドは、1959年にニューヨークのレークプラシッドで自らが主催した国際協議会について書いています。その協議会において、彼は彼のチームとなる地区ガバナーに向けて、次のように語りかけています。「方法と技術と手続きがなければ、私たちは、国際ロータリーのような組織はもちろんのこと、一ロータリー・クラブさえも運営することはできません。だとすれば、そのような機構を用いるからには、最高のものを備えなければなりません。しかし、ここで銘記しておかなければならないのは、機構は目的ではなく、あくまで目的達成のための手段に過ぎないということです。目指すところはより良きロータリーとより良きロータリアンにほかなりません」このお話から半世紀近くの年月が流れた現在も、目的は変わらず、より良きロータリーとより良きロータリアンです。

皆さんがここにこうして集まっておられるのも、ロータリーが好きだから、ロータリーの繁栄を望んでいるからに違いありません。皆さんはロータリーのリーダーであり、ロータリーのリーダーであることの意味をご存知のことと思います。

ロータリーのリーダーであることの意味とは、クラブとロータリアンを優先することです。それはまた、ロータリーにおいては、他の会員より偉い会員はただ一人として存在しないということを、肝に銘じておくこととも言えるでしょう。他より重要な責務に携わる会員はいますが、他より重要な会員はいません。一人一人のクラブ会員、クラブ会長、地区ガバナー、理事、そしてRI会長は、みな等しくロータリーの一部であり、ロータリーの将来の一部なのです。

過去101年間、ロータリーはその規模と認知度において大きく発展してきました。一つの小さなクラブが大規模なボランティアの国際的ネットワークとなり、その会員は、地元や海外の地域社会において、懸命に奉仕する意志と本物の変化をもたらすことのできる能力を兼ね備えた人々です。ユニセフ事務局長であるキャロル・ベラミー氏は、ロータリーは地球という村において尊敬される存在となりました。事実、この世界を地球村に発展させたのはロータリーです」と言っています。

今日のロータリーは、いかに官僚制度や不寛容といった障害が良識と善意によって克服できるものであるかを示す、この上ない手本です。また、多くの人々が意を決するなら、偉大なことを達成できるという証しであるとも言えます。

ロータリーは、地球村のリーダーです。来たる年度、私は皆さん一人一人に、それぞれの地区と地域社会においてリーダーの役割を果たしてくださるようお願いすることになります。私は、寛容と思いやりと誠実さを日々実践し自らが手本を示すことによって、ロータリーの道を率先するよう、皆さん一人一人にお願いいたします。そして、良きリーダーたる者が謙虚さを備えていることを踏まえ、私は皆さんに、親切心と微笑みをもって率先してくださるようお願いいたします。そうすれば、他のロータリアンは喜んでリーダーと共に歩んでくれることでしょう。

私がロータリアンとして送ってきた長い年月の間、とりわけ会長エレクトになってからというもの、実にシンプルなロータリーの教訓が人々の人生を変える力を発揮するのを、幾度となく繰り返し目撃してきました。世界中の大勢のロータリアンと出会い、静かなるリーダーシップと真心の親切、そして他者を助けたいという願望とがどれだけ多くを成し遂げることができるか、その力を目の当たりにしてきました。

南アジアを襲ったあの壊滅的な津波の後、世界中からロータリアンが救援に駆けつけました。彼らが直ちに救援作業に取り掛かることができたのは、被災者である朋友ロータリアンたちに協力したからです。現地のロータリアンは、ニーズや取り組みの方策を正確に把握していただけでなく、政府を介さずに段取りを付けることのできる人物を知っていました。他の団体からの救援隊員が遠くのホテルに宿泊して、毎朝飛行機で被災地へ赴いていたのに対し、ロータリアンは被災者たちと共に滞在しました。数カ月前、ローナと共に被災地を訪れましたが、一瞬にして奪い去られた住宅や生計そのものが建て直されていました。そして、ニュースを追う報道陣が姿を消した現在も、ロータリアンはまだ現地に残っています。

タイでは、津波で冠水した図書館の教育センターが改装されていました。このセンターでは、ロータリーによって寄贈された10台のパソコンを活用して、青少年にコンピューター技術を教えています。
 フィリピンでは、自閉症の子供たちのための学校を見ました。その市内においてこのようなニーズを適える初の学校を、ロータリアンが建てたのです。

どこの地域社会にもニーズはありますが、ロータリアンはそれらのニーズを特定し、必要な支援源を集め、ニーズに取り組みます。血液バンクや小学3年生のための辞書、10代の若者を対象とした指導力養成コースなど、ロータリアンは様々なニーズに立ち向かいます。

私たちがこの世に生を受ける前から、ロータリーは世界中で数え切れないほどの人々の人生をありとあらゆる形で変えてきました。ロータリーがこれからも末永くその力を発揮し、人々を助け続けることができるよう、ロータリーのリーダーとして、私たちは責任を負わなければなりません。

新しいロータリアンが、毎日クラブに入会しています。同時に残念ながら、毎日去っていくロータリアンもいます。この件については繰り返し述べられてきましたので、周知のことと思います。集会において誰かが会員増強について話し始めると、決まって興ざめしたようなロータリアンの眼差しがそこここに見られます。

いかにして新会員を惹きつけるかについて話すことに時間を費やすのは、賢明ではありません。その時間があれば、クラブの充実に費やしたほうが遥かに効果的と言えます。何故なら、ロータリーは、適切に機能していれば、現会員を維持し、新会員を惹きつけるに十分な魅力を備えているからです。

新しい会員がクラブを離れていくのは、リーダーシップの弱さや費用の問題や奉仕の機会が与えられないことが原因だと、やめた本人たちが語っています。そこで各自の地区内クラブにおいてこの3つの原因に力を注がれるよう、私から皆さんにお願いいたします。クラブの管理運営をしっかりと効果的に行うこと、会費に十分見合う価値を提供すること、意欲を喚起するような有益で実り多い種々のプロジェクトを地元地域だけでなく、海外のクラブと協同して実施すること。この3点を主軸にすることです。

新会員にとってロータリーをもっと身近で親しみやすい存在にする方法はいくらでもあります。ホテルで食事を囲まなければ例会が開けないわけではありません。それより朝食例会のほうが費用を抑えることもでき、多忙な人々にとっては都合がつきやすい時間帯です。会員の声に耳を傾け、彼らの意見を尊重するよう、クラブ会長を促してください。お決まりのやり方から離れ、次年度の強調事項を出発点として、プロジェクトの新しいアイディアを模索するよう、クラブに奨励してください。

ここで、次年度の強調事項について触れさせていただくことにします。カール・ヴィルヘルム会長と同じく、私は継続の力を信じています。協力の精神を信じています。そしてもう一つ、持続性も重要であると信じています。私たちロータリアンは、「人に魚を一匹与えればその日の飢えをしのがせることができるが、釣りの技術を教えれば、一生魚に困らない生計を与えると同じことになる」という諺の真理を理解しています。それでは、私たちの地域社会を生涯にわたってより良いところにしていくには、どうしたら良いでしょうか。それには最も基本的なところから始めましょう。それは、水です。
 きれいな水がなければ、ほとんど何もできません。水がなければ、作物を育てることはできません。安全な飲み水がなければ、子供の健康を守ることはできません。子供たちが水感染の疾病に冒されたり、何マイルも歩いて井戸まで水汲みに行く日課を強いられたりする限りは、通学もままならず、識字率の向上は望めません。水は命そのものです。喉が渇いていれば、他のことなど何もできるはずはないのです。それで私は水保全を強調事項の一つとしました。

清浄な水が十分に提供されたとしたら、どのようなことが起きるでしょうか。渇きが癒されると、他のニーズに意識が行くようになります。そのニーズとは飢えです。サンディエゴにいる皆さんには実感できないかもしれませんが、飢餓は世界中が抱える大問題です。毎年、1,100万人の子供が飢え死にしており、そのほとんどは開発途上国の子供たちです。70パーセントは予防可能な病気で死に、その主な死因は栄養失調と水感染の疾病とされています。食糧なくして、健康はあり得ません。また、健康なくして、希望を持つことはできないのです。そこで、保健と飢餓というもう一つの強調事項が生まれました。

健康な家族は、貧困の向こうに広がるより良い将来を思い描くことができるからです。そして、貧困を免れるただ一つの道、それが識字率の向上です。識字力のある子供は識字力を備えた大人に成長し、自分の村の外にも世界が広がっていることを知り、どこにいてもより良い生活が可能であることを知るに至ります。このことから、私は識字率の向上を強調事項に加えました。

私は識字を特に大切に考えてきました。それは実家が本屋であったことにも起因しますが、識字力がどれほど大きく家族や地域社会を変える力を持っているかを示す例を数知れず見てきたからでもあります。識字力こそが、貧困の連鎖から逃れる道です。識字力は特に地域社会において正当な評価を受けていない女性たちに、社会的な力を与えます。識字は、また、地域社会が水資源や保健と飢餓の問題に取り組み、次世代を教育することを可能にします。識字は目標であると共に、初めの一歩なのです。

ロータリーは、世界のすべての問題を解決する責務を担うわけにはいきません。しかし、ロータリーのリーダーとして私たちは、すべてのクラブとロータリアンが地元地域社会のために全力を尽くす力を備え、また、奉仕活動を持続していく手段を備えることができるよう、しっかりと確認していく必要があります。そうすれば、私たちが携わった仕事はすべて、長きにわたって影響力を持ち続けるでしょう。

長期的に関与するのがロータリーです。ですから、ロータリーのリーダーとして、私たちは、数週間先、数カ月先、数年先といった将来だけでなく、何十年先をも考えなければならないのです。私たちが去った後に私たちが今いる席に就くことになるのは、今ロータリアンになったばかりの会員です。これらの若き職業人の多くは、親として子育ての義務をも背負っており、仕事と家庭の両立に奮闘している人たちです。共稼ぎの家族が当たり前となり、多くの人々が時間に追われる生活を送っている今日、自分の家族もロータリーの一部として受け入れてほしいという会員の切望を、私たちは無視するわけにはいきません。そこで、ロータリー家族を強調事項として選びました。

一流のレストランで催されるダンスを兼ねた正式な晩餐に出かけることは、退職しているロータリアンにとっては格好な行事かもしれませんが、小さな子供を抱えた会員となると、話はまったく違ってきます。後者のロータリアンにとってこの行事は、子供と接する時間を削り、高額の費用に頭を悩め、さらにはベビーシッターの心配までしなくてはならないものです。そうなると、楽しみというよりは負担のほうが大きくなるでしょう。代わりに週末にバーベキューやピクニックや奉仕プロジェクトを行えば、家族全員が参加できるばかりでなく、コストも抑えることができ、浮いた費用は他のニーズに回すことができます。それに、このような行事を行えば、新会員もクラブに対して親近感を抱くはずです。

この先、私が皆さんにお願いしたいのは、年齢にかかわらずすべての人々を快く迎え入れることのできるようなクラブの雰囲気づくりに努めていただくことです。そして、インターアクト、ローターアクト、青少年交換、その他数多くの青少年のためのプログラムの重要性を、どうかしっかりと心にとめてください。これらの若者たちが、私たちの未来なのです。

ロータリーのリーダーとして、もう一つ銘記すべきは、ロータリーの未来に本当に大切なことというのは、この会場で起こることでも、エバンストンの理事会室で起こることでもないということです。大切なのは、世界中の32,000のクラブで日々起こることなのです。ロータリーのリーダーとして、私たちは、ロータリーの未来が世界中のクラブとその会員一人一人に託されていることを忘れてはなりません。皆さんの仕事と役割は、それらの会員と共にあるべきです。皆さんの仕事は、クラブを知り、クラブ会長を知り、彼らを成功に導くための手助けを行うことにより、地区の充実を図ることです。

ロータリアンとして、私たちは、クラブや地域社会で行われてきた従来のやり方を惰性としてそのまま繰り返すことに満足しません。私たちは現状維持に甘んじることなく、生じた問題に対して、誰かが解決してくれるだろうなどと責任逃れをすることもありません。それどころか、解決しようじゃないかと、自ら先陣を切るのが私たちです。より良い未来を築く技術と願望を備えているのが私たちです。そして、「率先しよう」と立ち上がるのが、私たちなのです。

2006-07ロータリー年度、どうか皆さん、「率先しよう」を実践してください。これが私のテーマであり、一つ一つ善行を成すことによって着実に世界を変えていくロータリアンの力に対する私の信念を表すものです。

すべてのロータリアンとすべてのロータリー・クラブに、活動と精力をもたらし、成果を生み出していただく必要があります。奉仕の方法を模索する中、各クラブは皆さんの支えを後ろ盾として感じることができるはずです。いかに率先すべきかをクラブに示すにあたっては、皆さんの激励とリーダーシップが、大きな違いをもたらしていくことでしょう。

コフィ・アナン国連事務総長は、以前、次のようにおっしゃいました。「十分な数の人々が物事を良くしようとと決断すれば、物事は良い方向へと変わっていきます。一つの目的の下に普通の人々が集まる時、変化を起こすことができるのです」

今日、私たちは、半世紀前にハロルド・トーマス氏が抱いていた目的と同じ共通の目的を持って、ここに集っています。その目的とは、今も昔もこれからも変わることなく、より良きロータリーとより良きロータリアンです。その時が訪れるまで待っているだけでは十分でないことを、ここにいる私たちは知っています。私たち全員が、共に「率先しよう」と先頭を切っていくのです。
 ありがとうございました。


2006年3月2日