.
炉辺談話(328)

2006年国際協議会講演 2

2006-07年度の会長強調事項

RI会長 カール・ヴィルヘルム・ステンハマー

 

読む能力は、人が生きていく上で備えるべき、必要不可欠な力です。読み方を習う機会に恵まれなかった人は、人間として私生活や社会生活を最大限に営むことができません。なぜでしょうか。なぜなら、言葉とは考える道具だからです。人は考える時に言葉を使いますが、言葉を学び、考えを表現するためにいかにしてそれらの言葉を並び替えるかを学べば学ぶほど、その人の思考能力は高まっていきます。言葉を習得し、理解することは、教育の基本です。だからこそ、生きていく上で極めて大切なのです。
 これは、スウェーデンのロータリアンで、子供や成人に対する読み書き教育の研究や手法の国際的権威であるイブ・マルムクイストさんが、1985年に書いた一節です。

非識字の問題は貧困に根ざしており、生活費を稼ぐ上での主な障害とされています。朝、目覚めても行くべき職場がないということは、その日の稼ぎがゼロということ、つまり、食卓にのぼる食べ物がないことを意味します。ここで明らかなのは、その人が外へ出て食べ物を得るために喧嘩を始める危険性です。さもなければ、その人はどうやって生き残ることができるでしょうか。
 世界の非識字人口の多くが発展途上国におけるものであるというのは確かですが、私たちはもっと真摯にこの問題を見つめる必要があります。ここアメリカや、私の母国のような先進国においても、識字能力のない人は存在するのです。後者の非識字は問題の本質が異なるかもしれませんが、確かに存在しています。

国連ミレニアム開発目標および教育に関連した目標に、次の2つがあります。(12015年までに、男女を問わず、世界中の子供たちが初等教育の全課程を受けられるようにすること、(2)遅くとも2015年までには全面的に、初等教育および中等教育における性別格差をなくすこと。
 識字率と教育は、清浄な飲み水や衛生といった他の重要な問題と結びついています。次の2つも国連によって目標と定められています。(12015年までに、飲み水が持続的に得られない人々の人口を半減させること、(22015年までに適切な衛生設備を持たない人々の人口を半減させること。

水や衛生に関する学校教育について、英国のオックスフォード大学の論文に次のように書かれています。
 学校で安全な水や適切な衛生設備を備え、これに対応する衛生教育を行うのには、合理的、経済的、人道的な理由がある。

 ・     学習への効果。清潔で衛生的な環境においては、子供たちの成績が向上し、自尊心が高まる。
     子供の権利。子供たちは、可能な限り高いレベルの保健と教育を受ける権利があり、これらにとって水や衛生の問題が重要なカギとなる。
     疫病感染の軽減。衛生設備を適切に使用、維持し、個人衛生のために水を適切に供給することは、感染および疫病流行の防止につながる。
     家庭および地域社会への影響。就学児童は、衛生的な行為や考え方を家庭や地域社会にもたらし、それを普及させることができる。
     環境面における清潔さ。設備が適切に維持され、使用されたなら、全般的な公共保健および環境保全に良い影響をもたらす。
     子供の将来に備えて。すべての児童、特に女子児童を教育することは、あらゆる国にとって、次の点において将来への最も重要な投資となる。すなわち、(1)児童が健康を維持することで、良く学び、社会に全面的に参加できるようになる、(2)社会においてより高い経済的・政治的地位を得るために、自身の権利を主張し、それを実現し、貢献できるよう教養を与えることになる一方、次世代の子供の保健や教育にも影響を与えることになる。これは、あらゆる国の目標である。

英国の別の団体、Water Aidからの報告によると、タンザニアでは、それまで水の入手に1時間かかっていたのが、わずか15分で手に入るようになった結果、学校の出席率が12パーセント上がったということです。また、世界銀行の調査では、水を運ぶ時間が減ったことで、バングラデシュの学校の出席率が15パーセント上がったことが明らかになっています。

1年余り前、RIでは、私たちのポリオ撲滅プログラムの協同パートナーのひとつ、ユニセフの当時のCEOであったキャロル・ベラミー氏の訪問を受けました。私たちは長時間にわたって水問題について話し合い、ベラミー氏は、清浄な水と衛生の関係について強調しました。実際、彼女がこれらの問題について外で講演を行う時、よく人から「マダム・トイレ」と呼ばれるのだそうです。衛生とは、汚いものを意味する言葉ではないということを、私たちは肝に銘じておかなければなりません。

汚染は水と関係するもう一つの問題です。世界中のロータリアンは、汚染水をろ過して浄化し、問題に対処して、成果を上げています。私たちは引き続き活動を行っていくと同時に、今後は水汚染の原因にも目を向ける必要があります。母なる自然が私たちに与えてくれるものに手を加えるのは、多くの場合、工場や企業であり、これらが汚染水を作り出しています。しかし、家庭でもこの問題について考えることができます。「家庭菜園で使いたくないと思うものは、台所の流し台に捨ててはいけない」と私を教育してくれたのは、妻のモニカです。私は多くの国で、芝生から雑草を除くために、あるいはより青々とした芝生を育てるために、化学物質を使うテレビCMを見たことがあります。これらの化学物質の多くは有毒であり、雑草除去の役目を果たした後には、地下水にまで染み通って、私たちの将来の水源となっていきます。

世界は、真水の危機に直面しています。人々は既に、世界に蓄えられている真水の半分以上を使っており、2025年までには4分の3近くを使うことになると考えられています。水とは、限りがあり、汚染を受けやすく、他に代わることのできない資源であるにもかかわらず、多くの国では、無制限に、長続きしない方法で利用されています。水は、消費という観点からではなく、その蓄えという観点から計画的に利用しなければなりません。水は、生産不可能な産物です。水は、私たちに貸与された自然の産物です。コップ一杯の水で喉の渇きを癒すことは、真の意味で人類の歴史と触れ合うことです。私たちが飲む水は、何百万年も昔に恐竜が飲んでいたのと同じ水なのです。地球上には常に一定量の水しか存在せず、それは加えることもできなければ、なくなることもありません。ですから、地球上の人口が増えるにつれて、私たちはより多くの人々とこの限られた資源を分かち合わなければならないのです。

過去100年間に世界の人口は3倍に増え、それと同じ期間、水の消費量は6倍以上にも増えました。川の流域やはんらん原がほぼ永久的に人類文明の中心として栄えてきた一方、世界人口の20パーセントは安全な飲み水を得ることができず、40パーセントは水の干上がった川辺に住んでいます。真水は世界中の水の1パーセントにも満たず、平等に配分されているわけではありません。そのおよそ23パーセントは、国際ロータリー世界本部の窓のすぐ外にあります。そう、北米の五大湖です。

水保全の必要性は、あまりに明らかです。
 では、ロータリーには何ができるでしょうか。

ボイド会長エレクトは、ジョナサン・マジィアベ元会長以来、グレン・エステス元会長、そして私の年度に強調事項とされてきた識字率向上を、引き続き強調事項と定められました。ロータリー・クラブは現在までに、読み書き、計算を教えるための非常に多くのプロジェクトを実施してきました。ロータリアンは、学校の設備を整え、教師を育て、通学するための衣服を子供たちに提供してきました。世界中の地域社会において、ロータリアンは時間を割いて学校を訪問し、子供たちに本を読んで聞かせたり、本を読む子供たちの声に耳を傾けたりしてきました。自分自身や家族を養う上で多くの人々に限界をもたらしているこの問題への取り組みに、ロータリアンの豊富な経験と熱意が未だ必要とされています。だからこそ、世界中すべての人々に識字能力が備わるよう、引き続き努力を傾けていこうではありませんか。

ボイド会長エレクトはまた、グレン・エステス元会長が始め、私が受け継いだ水保全を強調事項とされました。ロータリアンは、世界各地でこの問題に既に取り組んでいます。多くのロータリー・クラブの水プロジェクトのおかげで、何十万もの人々が今やきれいで安全な水を容易に手に入れることができるようになりました。きれいな水や適切な衛生施設によって、多くの保健上の恩恵がもたらされました。さらに、水保全問題は食糧の供給にも影響します。従って、水保全を強調事項とすることは、これら必要不可欠な資源を利用できない人々の飢餓の軽減や保健、福利の向上にも役立つでしょう。

これらは継続性を表す二つの例でしたが、会長エレクトは継続こそがロータリーという組織の存続にとって極めて重要であると感じておられます。

トラバース・シティのロータリーの慈善活動から、私たちは学ぶことができるでしょう。100万ドルの補助金が授与されたこれらのロータリアンは、グレート・レイクス・ウォーター・スタディーズ・インスティチュート(五大湖水研究協会)と協同して活動し、国際ロータリー創立100周年にあたる2005年のテーマを「水」としました。これは、未来のロータリーにおけるもう一つのキーワード、「協力」を表す素晴らしい例です。

では、皆さんには何ができるでしょうか。
 公共の認識を高めることは、非識字および水保全に取り組む上で極めて重要です。この分野において、皆さんの活躍が期待されています。皆さんは地域社会のリーダーであり、国のリーダーです。皆さんの人脈を駆使して、今日の政治家やビジネス界のリーダーたちに、非識字と水保全の問題に対し警告を発してください。これらの問題は、誰にとっても他人事ではないように、指導層にとっても同じように重要なはずです。汚染管理や水の再利用を通じて、また、枯渇の危機にある資源としての水の再認識を通じて私たちが行ってきた水保全運動の効果を、世界中のリーダーに理解していただくことにより、私たちは大きな進歩を遂げてきたと言えます。皆さんはこの力となることができるのです。

 地区ガバナー・エレクトの皆さん、国際ロータリーの将来は、間もなく皆さんに委ねられることになります。2006-07年度を実り多い年度とするために、「超我の奉仕」を通じて「率先しよう」を実践してくださるよう、どうかお願いいたします。


2006年3月9日