.
炉辺談話(330)

ロータリアンの責務

 

企業が引き起こす不祥事が後を絶ちません。談合、贈収賄、粉飾決算といった従来型の明らかな経済事犯に加えて、最近は、明らかに特定企業の利益誘導を狙った天下り、自分の利益のみを考えた巧妙なM&Aや限りなく灰色に近い株式の取引といった、犯罪と紙一重の実業とも虚業ともつかない経済行為が目につきます。

これらの技法は、違法行為ではないにしろ、法律の抜け道を巧みについたものであり、明らかに道徳律第9条「社会秩序の上で、他の人たちが絶対に否定するような機会を不正に利用することによって、非合法的または非道徳的な個人的成功を確保することを考えてはならない。物質的成功を達成するために、他の人たちが道徳的に疑わしいという理由から採らないような、有利な機会を利用しないこと。」に抵触する行為です。道義的に疑義のあるような条件や、機会を利用した取引は、ロータリーの職業奉仕には馴染みません。

アーサー・フレデリック・シェルドンは、法さえ犯さなければ、如何なる手段を講じようとも大きな利益を得た者が成功者としてもてはやされた19世紀の商取引から決別して、商取引を販売学という学問と考えて、法則に則った科学的かつ道徳的な企業経営をすれば、必ず永続的な事業の発展が約束されるという職業奉仕理念を提唱しました。「儲けようと思って事業を営むことが事業に失敗する最大の原因です。すべての職業は社会に奉仕するために存在するのであって、私たちは職業を通じて社会に奉仕したから、それに見合った報酬を受けているのです。利益は他人に奉仕をした見返りとして与えられるものであり、社会に大きな奉仕をすれば、必ず大きな報酬が得られるのだし、少ししか奉仕をしなければ、少しの報酬しか得られないのです。」と原因結果論を述べています。

今、世間の注目を浴びているM&Aも、会社や従業員を救うために行うのならば、立派な実業ですが、自分の利益のためだけに行う「会社乗取」ならば、ロータリーが定義する職業とは程遠いもの、すなわち虚業と言わざるを得ません。実業と虚業とは、社会に奉仕する事業か否かで区別すべきです。

一見さんだけを相手にしていたのでは、事業の発展は望めません。自分の事業に関係するすべての人に奉仕をする心構えで事業を営めば、その真摯な態度が顧客の心を打ち、必ずリピーターとなって再三その事業所を訪れたり、他の顧客を紹介するという行動となって現れます。別な見方をすれば、リピーターとなって再三訪れたり、他の顧客を紹介しようと思う事業所は、当然のことながら高い倫理基準を備えている事業所だといえます。

一人一業種制度による職業分類は、職業奉仕の実践をする上で、それぞれの会員の守備範囲を定める重要な要素です。当初は、同業者を排除することによってクラブ内の親睦を高めるために設けられた制度でしたが、その後、それぞれの会員が所属する業界にロータリーの奉仕理念を伝えるために派遣される大使であり、限られた数の会員をなるべく多くの業界に派遣するためには、一人一業種で会員を派遣するのが最も効率的であるという、理論武装がなされて現在に至っています。職業分類は会員の職業上の守備範囲を定めると同時に、責任を定めています。たとえ天変地異が起ころうとも、戦乱が起ころうとも、自分に貸与された職業分類に従った職業奉仕活動を継続することによって社会に奉仕する義務があることを忘れてはなりません。

自分の職業を通じて社会に奉仕するという心構えで、ロータリーの奉仕理念に則った科学的かつ道徳的な事業運営をすれば、必ず事業の継続的な発展が得られることを自分の事業所で示せば、同業者も当然それを見習うに違いありません。その結果、業界全体の発展と高い職業倫理が期待できるのです。

ロータリアンの事業所が高い職業倫理を示す責任があることは当然ですが、ロータリアンが自分の属する業界にロータリーの理念を伝えるための大使として派遣されていることは、ロータリアンには、自分の属する業界のすべての人が、高い道徳基準を持って事業を営むように指導する責任があることを意味します。その業界の中で卓越したリーダーシップを持っていると判断したからこそ、ロータリーが職業分類を貸与したのであって、ロータリーの理念を業界内に伝える能力を持っていない人や、業界内でリーダーシップを発揮することができない人や裁量権を持っていない人はロータリアンになる資格はありません。

もしも、ロータリークラブの会員が職業倫理にもとるような行為をしたら、当の本人が糾弾されるのは当然ですが、クラブ内のロータリアン全員もその共同責任を問われるのです。不祥事を引き起こした人がロータリアンでなくとも、その地域社会で同一業界に属するすべてのロータリアンは、ロータリーの理念を業界内に浸透させることがはできなかった責任を免れることはできません。

最近、リコール隠しに狂奔した自動車業界、土木業界の談合、建築強度計算の欺瞞などの不祥事が問題になっています。これらの犯罪を起こした人がたまたまロータリークラブの会員でなかったことに安堵するのではなく、これらの業界の倫理基準を高められなかった、同一テリトリーの中で同一の職業分類を持ったロータリアンの責任を問うべきではないでしょうか。


2006年3月24日