ロータリーの目的 1
ロータリーの奉仕理念と綱領の変遷
「ロータリーの目的は何ですか」という質問に、即座に適切な回答を返す人は殆どいません。
「一人一業種で選ばれた裁量権を持った職業人と専門職種の人が、毎週1回の例会に集まって・・」とロータリーの原理原則を説明する人もいるでしょうし、職業奉仕を説く人、人道主義的な奉仕活動を説明する人もいるでしょう。いろいろな角度からロータリーのことを説明しているうちに、質問をした人も、答える人もいい加減くたびれてしまうというのが実際のところではないでしょうか。
英語で同じ質問をしたらどうでしょうか。「What is the object of Rotary?」何人かの人は、この英語の質問を聞いただけで、何らかのヒントを見つけるかも知れません。
「object of
Rotary」 ロータリアンならば、どこかで聞いたことのある定例句ですね。そうです。「ロータリーの綱領」です。「object of Rotary」を素直に「ロータリーの目的」と訳しておけば何の問題も起こらなかったのに、どこかの愚かな日本人が、格好をつけて、「ロータリーの綱領」と訳してしまったために、「ロータリーの目的」を尋ねられても、即座に答えられない日本人を作ってしまったのです。
「ロータリーの目的」は「ロータリーの綱領」であるという事実を再確認しながら、「ロータリーの綱領」すなわち「ロータリーの目的」がどのように変遷して現在に至ったのかということを、検証してみたいと思います。以下、本文中では「ロータリーの綱領」という言葉は使わず「ロータリーの目的」に統一します。
法さえ犯さなければ、如何なる手段を駆使しようとも、大金を手中にした者が成功者としてもてはやされる、極端ともいえる自由主義経済の下でロータリーは出発しました。大都会で事業を営む実業家にとっては、周囲にいる同業者はすべてライバルであり、僅かな隙でも見せようものならば、寄って集って引きずり落とされる過酷な競争社会の中では、誰一人として信用できる人はなく、孤独感と、いつこの自由競争の落伍者になるのかという恐怖感に苛まれていました。そんな中にあって、胸襟を開いて、心から打ち溶け合ってどんなことでも語り合える友人を得るために創られたのがロータリークラブです。
従って、ロータリー創立当初の最も重要な目的は会員同士の親睦を深めることでした。ロータリーの一人一業種制に基づく職業分類制度は、親睦を阻害する要素となる同業者を排除するために設けられた制度であり、やがてこの異業種の組織を利用して、お互いの事業を活用した物質的相互扶助によって事業を発展させる方策がとられるようになりました。
1906年1月、ポール・ハリス、マックス・ウルフ、チャールズ・ニュートンによってシカゴ・クラブの最初の定款が起草された時点では、まだ「ロータリーの目的」は存在しておらず、僅か二箇条に纏められた定款そのものが、「ロータリーの目的」を表わしていました。
<1906年1月制定 シカゴ・クラブ定款>
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1.
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本クラブ会員の事業上の利益の増大
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2.
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通常社交クラブに付随する親睦およびその他の特に必要と思われる事項の推進
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1.
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The
promotion of the business interests of its members.
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2.
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The
promotion of good fellowship and other desiderata ordinarily incident to
social clubs.
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定款の内容は会員の事業の発展と親睦を謳い上げたものであり、事業発展の手段としてもっぱら推奨されていた方法は、会員同士の物質的相互扶助でした。
1906年4月、フレデリック・ツイードがシカゴ・クラブの定款を示しながら、物質的互恵の特典を説明して、ドナルド・カーターに入会を勧めた際、カーターは「社会の利益になることを考える組織は発展しますが、自分たちのことだけを考えている組織には将来性はありません。」と言って入会を断りました。物質的互恵と親睦のみに終始することに限界を感じていたポール・ハリスは、彼の提言を受け入れて、1906年12月に、対社会的奉仕活動を示唆する第3条を追加し、その後続々と創立されたシカゴ以外のクラブは、第3条の「シカゴ市」の部分をそれぞれのテリトリーを表す市名に置き換え、他の部分はほぼそのままの形で使いました。
<1906年12月改正 シカゴ・クラブ定款>
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1.
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本クラブ会員の事業上の利益の増大
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2.
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通常社交クラブに付随する親睦およびその他の特に必要と思われる事項の推進
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3.
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シカゴ市の最大の利益を推進し、シカゴ市民としての誇りと忠誠心を市民の間に広める
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1.
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The
promotion of the business interests of its members.
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2.
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The
promotion of good fellowship and other desiderata ordinarily incident to
social clubs.
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3.
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The
advancement of the best interests of Chicago
and the spreading of the spirit of civic pride and loyalty among its
citizens
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定款に「市民としての忠誠」という言葉で奉仕概念が導入され、その実践活動の一端として、公衆便所建設運動に取り組んだものの、依然として会員同士の相互取引を中心とした物質的相互扶助は盛んで、クラブに統計係Statisticianをもうけて、会員同士の取引を発表させ、その結果に一喜一憂する状態が続きました。
重要事項……毎回の食事の数を確定し、会員相互で取引されたビジネスの量を確認する必要があるので、この郵便物を直ちに返送すること。あなたが取引したビジネスを立証する記録をつけて、その会員の名前をしめした記録を大切に保管しておくこと。
次回の例会に参加しますか (は い) (同伴者数)
(いいえ)
会 員 報 告
前回の例会以降 私は 人の会員から 件の取引を受け取った。
私は 人の会員について 件の取引に影響を与えた。
私は 人の会員に 件の取引を与えた。
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1911年に発行された全米ロータリークラブ連合会の会員名簿には、その左側のページには、当時24クラブ創立されていたロータリークラブの役員の名前と住所が記載されており、右側のページには、その街における有名な事業所の名称や住所や電話番号などが、抜粋されて記載されています。遠く離れた町の間で取引が行われる際、この名簿が活用されたものと思われます。
ミネアポリスの果物商が、カリフォルニアのオレンジを買い付けるとき、どこに注文したら、自分が望む品物が送られてくるのかはわかりません。また、カリフォルニアのオレンジの農園主も、その代金が無事に回収できるかどうか、全くわからないのが、当時の状況でした。もしも、その双方が、ロータリアン同士ならば、何も心配もなく取引ができるわけです。
同じく1911年の全米ロータリークラブ連合会の組織表を見ると、Local trading committee、Intercity trading committee、National trading committeeという委員会名が記載されています。これは、市内や近郊や国内の商取引を円滑にするために作られた委員会です。当時はこのようにして、ロータリアン同士の物質的相互扶助がさかんに行われていたのです。
1910年に、全米16クラブの連合体として全国ロータリークラブ連合会が結成され、最初の「ロータリーの目的」が制定されました。当時のロータリークラブはアメリカ国内に限定されていたことから、この連合会を、国内における全てのクラブの連合体として位置付けることが明記された以外は、その内容も当時のロータリーの考え方を背景とした、[市民としての忠誠][進歩的な商取引][商業上の利益の増大]が謳われており、シカゴ・クラブ定款の域を出ていません。当初、原案にあった「会員相互の取引関係を増大すること」が、「進歩的で尊敬すべき商取引の方法を推進すること」に修正されたことは、物質的互恵からの脱却を意図するものとして注目に値いしますが、「加盟ロータリークラブの個々の会員の事業上の利益を増大すること」は、依然として、物質的互恵の世界から抜け出せずにいることを物語っています。
この大会において、アーサー・フレデリック・シェルドンが、“He profit most who serves his fellows best.” の声明を発表しましたが、その真意を理解した人は少なく、従って「ロータリーの目的」にほとんど影響を与えていません。
<ロータリーの目的制定 1910年 シカゴ大会>
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1.
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アメリカ全土に加盟ロータリークラブを結成することによって、ロータリーの原則を拡大発展させること
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2.
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アメリカ全土の加盟ロータリークラブの業務と原則を統一すること
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3.
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市民としての誇りと忠誠心を喚起しかつこれを奨励すること
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4.
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進歩的で尊敬すべき商取引の方法を推進すること
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5.
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加盟ロータリークラブの個々の会員の事業上の利益を増大すること
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1.
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To
extend and develop Rotary principles by the organization of affiliating
Rotary clubs throughout America
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2.
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To
unify the work and principles of the affiliating Rotary clubs throughout America
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3.
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To
arouse and encourage civic pride and loyalty.
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4.
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To
promote progressive and honorable business methods.
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5.
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To
advance the business interests of the individual members of the affiliating
Rotary clubs
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