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炉辺談話(339)

マンホール man-hole

女性にロータリアンの身分を解放したとたん、ロータリーの古典的な文献の中で多用されているHeとかManといった単語が差別用語であるから、すべて抹消すべきであるという運動に飛び火してしまいました。その結果、ロータリーの理念であるHe profits most who serves bestというモットーの存在が風前の灯になっていることは、皆様ご承知の通りです。
 
古き時代では、HeManが人類を一般的に表していたことを知ってか知らずか、ロータリー運動と公民権運動を混同した過激なリベラリストたちによって、アメリカのロータリーが牛耳られている現状を苦々しく思っているのは、私だけではないと思います。

私は、2004年の規定審議会で、アメリカ国歌の四番の歌詞にO thus be it ever when free men shall stand という表現があり、アメリカの独立憲章の中にも All men are created equal Governments are instituted among men という言葉が使われていることを引き合いにして、HeとかManは決して女性を除外しようとして使用しているのではないことを強調した上で、アーサー・シェルドンによって提唱されたHe profits most who serves bestというモットーはロータリーの職業奉仕理念を明確に示したものであって、このモットーの原文そのものが、ロータリーにとって極めて重要なものであることを力説して、何とかロータリーとって歴史的に重要なドキュメントやステートメントはその原文を保存するという提案の承認をうけることには成功したのですが、He profits most who serves bestThey profit most who serve bestに変えるという馬鹿げた提案を阻止することはできませんでした。

私は今、アメリカのシアトル郊外に住んでいる上の娘の家で、このレポートを書きがら、近隣クラブに出席して、ロータリーライフをエンジョイいているのですが、アメリカではヒステリックなまでに、男女の性別を限定する用語や差別用語を廃止しようという運動が盛んになっていることを強く実感しています。

つい先日もテレビで、Man-holeマンホールという言葉は性差別用語なので、今後はmankind-holeマンカインド・ホールという言葉を使おうというジョークが、まことしやかに囁かれていました。それにも満足しない女性活動家たちが、いっそのこと、Woman-hole(女性の穴)にしようという運動を起こしたら愉快なのですが。

アメリカでは今、政府やマスコミを中心にして、politically correct PCと称する、政治的な公正さとか差別を排除する運動が盛んに進められています。日本でも放送コードなどができて、差別用語が追放されているようです。こその影響を受けてか、生活習慣病とか認知症などという奇妙な日本語が使われるようになりましたが、アメリカはその比ではありません。

Suspect(容疑者)という言葉は差別用語なので、person of interest(関係者)という言葉に代えようという申し合わせができたそうです。テレビのニュースでアナウンサーが、ついついsuspectという言葉を使ってしまい、あわてて、He is not a suspect, he is a just person of interest.(彼は容疑者ではなく単なる関係者です)と言い直すシーンに頻繁に遭遇するのは、お愛嬌としか言いようがありません。

元来は医学用語ですが、つい最近までは一般の人もよく使っていたcrippled person(不具者)という言葉は完全に姿を消して、handicap person(障害者)という言葉が使われるようになりました。特に身体的な欠陥を表す言葉にはimpaired(障害を持つ)という言葉がよく使われ、deaf()に代わってhearing impaired(聴覚障害者)blind()に代わってsight impaired(視覚障害者)dump()に代わってspeech impaired(発声障害者)という言葉が使われているのは、日本と同様です。
 また容姿や体型や知能に関する言い回しには、challenged(困難を負った)という言葉がよく使われ、fat people(肥満者)のことをweight challengedretard(知恵遅れ)のことをmental challengedと呼んでいるのは理解できるとしても、背の低い人をvertical challenged(垂直に伸びるのが困難な人)と表現するのはいささか噴飯ものです。そのうちに背の高い人をHorizontal challenged(横に広がるのが困難な人)という表現が生まれるかも知れません。

昔は男性の職業であったship-man(船員)も今では女性の進出によってship personに変わりましたし、ロータリーの世界でもchair-man(委員長・議長)という言葉は死語となって、今はchair personが使われています。
 差別によって訴訟されるかも知れないという不安を抱きながら、文章を書かなければならない時代が来るのは、目前に迫っているのです。


2006年6月16日