.
炉辺談話(47)

大連宣言 

 イギリスとアイルランドの例に倣って[ロータリーの日本化]が真剣に論議され、1936年に神戸で行われた地区大会で、大連クラブのロータリー宣言[大連宣言]を採択する旨の動議が、直木太一郎によって提出されましたが、[ロータリーの綱領]の改正を意図するものとして大激論となりました。
 正しい日本語と東洋的思考からロータリー精神を説いた[大連宣言]を英訳することによって、逆に、[ロータリーの綱領]を改正すべきだとする村田省蔵と、国際大会で決定した[ロータリーの綱領]を勝手に変更することはできないとする米山梅吉とが激しく対立しましたが、結局、この宣言は、ロータリーの綱領の内容を補足するものとして、大会宣言として取り扱うことで収拾されました。

 大連クラブ会員、古沢丈作の作であるこの[大連宣言]は、ロータリーの日本化を図るものとしての批判がある一方で、[ロータリーの綱領]と[ロータリー道徳律]の精神を、格調高い日本語で適格に表現した最初のドキュメントとして、高い評価を受けています。

大 連 宣 言

第1.須らく事業の人たるに先立ちて道義の人たるべし。蓋し事業の経営に全力を傾倒するは因って世を益せんがためなり。ゆえに吾人は道義を無視していわゆる事業の成功を獲んとする者に与せず。

第2.   成否を日うに先立ち退いて義務を尽さむことを思い進んで奉仕を完うせんことを念う。自らを利するに先立ちて他を益せむことを願う。最も能く奉仕する者、最も多く満たさるべきことを吾人は疑わず。

第3.   あるいは特殊な関係をもって機会を壟断しあるいは世人の潔しとせざるに乗じ巨利を博す、これ吾人の最も忌むところなり、吾人の精神に反してその信条を紊るは利のため義を失うよりはなはだしきは無し。

第4.   義をもって集まり、信をもって結び、切磋し琢磨し、相扶け相益す。これ吾人団結の本旨なり。しかれども党をもって厚くすることなく他をもって拒むことなく私をもって党する者にあらざるなり。

第5.   徒爾なる角遂と闘争とは世に行なわるべからず、協力をもって博愛平等の理想を実現せざるべからず、しかり吾が同志はこの大義を世界に敷かむがために活躍す吾がロータリーの崇高なる使命ここに在り、その存在の意義またここに存す。

 ロータリー・ソング、[奉仕の理想]と[我等の生業]は、この一連の[ロータリーの日本化]の流れの中で、1935年に作られたものです。この頃から、日本のロータリー運動は受難の時代に入ります。ロータリーという名前やその本部がアメリカにあることから、秘密結社やスパイと疑われ、果てには、フリーメイソン説まで飛び出すありさまで、右翼団体や軍部から再三にわたる嫌がらせや干渉を受けることになります。クラブ旗の隣に国旗をかかげ、月初めに国歌を唱うという、現在では極く普通の例会風景も、実は国家への忠誠心を示すために考えられた、この当時の歴史的な名残なのです。