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炉辺談話(86)

規定審議会前夜

 4月22日から28日までの7日間、シカゴで3年に一度の規定審議会が開かれます。
 低迷気味のロータリーを思い切って改革するために、なるべく多くの提案を寄せるように働きかけた効果がでて、現在657件にのぼる立法案が提出されています。
 我々代表議員には立法案の詳細が、Vol. 1とVol. 2の2冊の分厚い本(合計1,180ページ)となって渡されていますが、今日の段階でVol. 2の翻訳がまだ出来上がらず、英文のまま渡されるという状態です。

 規定審議会の審議はロバート議事法によって行われます。代表議員が自らの地区からの提案について、その提案理由を与えられた持ち時間内で説明します。今回は提案があまりにも多いため、2分以内になる可能性が高そうです。
 場内から、「セコンド(賛成)」の声がかかれば、その提案に関する賛成、反対の意見発表に移ります。賛成側と反対側のマイクの前に発言を求める代表議員が並んで、順次自分の意見を述べます。適当に意見がでたところで投票に移ります。
 その意見の中で修正案の動議がでれば、先にその修正案に関する審議と投票を済ませた後、原案の審議に戻ります。慣れないと、今、何の審議をしているのかが判らなくなることもあり、注意を要します。
 なお、提案理由の説明に際して「セコンド」の声がかからなければ、賛同する者はいないとみなされて棄却されます。

 似通った内容の提案は、まとめて審議される場合もあります。代表議員が自らの地区やクラブが提案した立法案の提案理由説明を怠った場合は、撤回したものとみなされます。こういった現象はかなりの頻度で見られるようです。

 さて、提案理由説明に2分、賛成と反対演説に各4分かかったとすると、1案件当たり10分、657件で110時間かかる計算になりますから、1日10時間休みなしに審議したとして11日間かかることになります。これを実質6日間で済ませるわけですから、提案の撤回が続出しない限り、朝早くから深夜まで、息つくひまもないハード・スケジュールが続くことが予測されます。

 規定審議会に提案される立法案の中から、興味深いものをご紹介したいと思います。


 この度の規定審議会に、理事会から提案される立法案の一つにニュー・モデル・クラブの認証があります。
その概要は
@RI定款・細則・標準クラブ定款に拘束されない、全く独自の定款を採用したクラブを認める。
A既存のクラブから移行してもよいし、まったく新しいクラブが名乗りでてもよい。
B全世界で200クラブまで、パイロット・プロジェクトとして実施し、最長5年間継続できる。

 現在の定款や細則の規定に縛られず、クラブが良いと信じる道を歩ませることで、ロータリー運動の将来のあり方を模索しようという意味から、RIが提案した試験的プロジェクトです。

メリット
1. RI定款・細則および標準クラブ定款に拘束されない、クラブ独自の定款によって運営することによって、クラブの自治権が完全に保証されます。
2. 会員身分、出席規定、例会開催、活動内容等を全て自由に決めることができます。
 現行の規約の下では職業分類が既に充填されているために入会を拒否されたり、毎週の例会出席が不可能なために入会をためらっている人を含めて、幅広く会員を集めることができます。
 なお、年齢の下限を引き下げれて、新世代のためのロータリークラブや、例会を開催せずにボランティア活動を専門に行うロータリークラブを作ることも可能になります。

デメリット
1. 私たちはロータリーの綱領を遵守することを条件に、ロータリークラブに入会することが許されました。異なった綱領に従う人を、果たしてロータリアンと呼べるのかどうかという疑問が湧きます。
2. 国家・国民にとって憲法を遵守することは最大の義務であるのと同様に、ロータリーにおいては定款を遵守することがロータリアンの最大の義務です。憲法とは単なる規約ではなく、その国の理念が凝縮されたものであり、定款とはその組織の理念が凝縮されたものです。同一組織の中に異なった理念を持った組織が混在することは、あり得ないことです。
3. 憲法にしろ定款にしろ、時代の流れの中で変更を余儀なくされる事態が生じるのは当然で、ロータリーでは定款の変更を最大の重要事と考えて、この作業を規定審議会に委ねてきた経緯があります。今、規定審議会の審議なしに、理事会の裁量権のみで、任意の定款を採択できる特殊なクラブを作るという今回の理事会提案が採択されれば、結果として、RI理事会に立法権を与えることになり、規定審議会は有名無実の存在になります。
4. 5年が経過して、このパイロット・プログラムが終了した際、そのクラブの定款はそのまま残ることが明記されているので、ロータリーはプロジェクト参加クラブの200の定款と現行の標準クラブ定款を併せ持つことになり、これらが同じロータリー・クラブを標榜することは、理念の一元性からも許されないことです。


 RI理事会および13の地区またはクラブより提案された制定案01-148「職業分類の原則を保持しつつ、正会員と名誉会員にクラブの会員の種類を減らす件」は、会員の種類の簡素化と、一人一業種による職業分類制度の緩和を求める提案です。
 会員の種類の簡素化は、現在の正会員、アディショナル正会員、パスト・サービス会員、シニア・アクチブ会員の種類を撤廃して、全て正会員に統合し、名誉会員との二本立てにしようというものです。

 名誉会員の特徴は会費納入と出席義務が伴わないことであり、国際的な富豪や有力者を名誉会員として入会させることによって、多忙な当人に例会への出席義務を課すことなしに会員を増強すると共に、ロータリーの国際的なイメージ・アップに貢献し、さらにロータリー財団への多額な寄付が期待できるというメリットを持っているとRIは説明しています。
 すでにテッド・ターナー(タイム・ワーナー社主、CNN副社長)やビル・ゲーツ・シニアなどを入会させ、さらに各国の著名人や資産家を入会させるように要請しています。テッドはつい先日、国連のアメリカ分担金3200万ドルを個人で肩代わりした大資産家です。

 従来の定款では、徐々に緩和の方向に向いつつある一人一業種制度を、少なくとも正会員に対してだけでも堅持していこうと、アディショナル正会員に関しては、正会員の了解を得ることを条件とし、パスト・サービス会員については完全にリタイアしていることを条件とし、シニア・アクチブ会員については、在籍年数と年齢に制限を設けてきました。
 しかし、これらの会員の種類が正会員として一括されると、新しい正会員の資格条件を巡っていろいろな疑義が生じるため、一人一業種制度を事実上緩和して、一職業分類に10パーセントまでの正会員を認めようという提案です。

 現在の定款でも、理屈の上からは、一職業分類に七名の会員が入会できます。正会員、アディショナル正会員の三つのカテゴリー、パスト・サービス会員、シニア・アクチブ会員、名誉会員の7名です。これを50名以下のクラブは5名、51名以上のクラブなら10パーセントにするわけですから、決して一人一業種による職業分類制度の緩和を求めるものではないと、考えられる方もいるかも知れません。
 然しながら、この10パーセントの枠の中に、現実に第一線で働いている正会員がひしめき合うことになれば、そこに真のクラブの親睦が保たれるかどうか、大きな疑問を感じます。

 一人一業種で選ばれた、裁量権を持った職業人が集い、誰にも遠慮することのない雰囲気の中で、自由に職業上の発想の交換を行い、それによって自らの事業の改善を図ることに、例会の意義があるとするならば、充分な裁量権を持たない人を含めて、同業者がひしめく例会に出席することに、大きな魅力を感じるロータリアンが果たして何人いるでしょうか。


 RIから提案される制定案01-215は、クラブ区域限界という概念をなくして(完全になくすわけではなく、拡大解釈をして)、クラブ拡大と会員増強を容易にしようというものです。
 従来の規定では、定款によって、自らのクラブの区域限界(テリトリー)を定め、そのクラブの会員になるためには、クラブ限界内もしくは隣接するクラブの区域限界内に事業所または住居があることが必要でした。隣接するクラブの区域限界内と明記されていますから、同一行政区または隣接行政区から会員を募ることは可能ですが、一つ飛び越えた行政区からは禁じられていたわけです。
 制定案01-215は、これを緩和して、クラブの区域もしくは周辺部に事業所または住居があることを条件にしていますから、周辺部という解釈の仕方によっては、相当広い範囲から会員を受け入れることが可能になります。
 これは、全ての地域が複数のクラブによる会員獲得の草刈場になることを意味しますので、近隣クラブ同士の和を如何に保つかが、重要な問題となるでしょう。更に地域社会に密着した奉仕活動をするに当たって、直接自らの地域社会に関係のない周辺地域の会員の積極的な協力を、どのようにして得るかと言う問題も解決する必要があるでしょう。

 更にこの制定案には、すでにクラブが設立されている区域に、親クラブの承諾なしに自由に新しいクラブを設立できるようにしようという提案が含まれています。
 従来は、新しいクラブを設立しようとすれば、既にその区域限界をテリトリーとしているクラブから、区域の共有または割譲を受ける必要がありました。すなわち、親クラブの承認なしには、新クラブの設立はできなかったわけです。

 もっとも、親クラブの承認が得られなかった場合は、RI理事会は再審議を指示することが可能であり、それを否決するには、3分の2以上の投票が必要になります。更に、親クラブが否決した場合でも、RI理事会の判断で、区域の共有または割譲を承認することができます。
 すなわち、規約上では、親クラブがいくら反対しようが、最終的には新クラブが設立できるようになってはいますが、そこまで強行して新しいクラブを設立したとしても、将来、親クラブや近隣クラブと友好的な付き合いをしようと思えば、親クラブからの区域の共有または割譲の承認をもらうべきであり、それが得られないのなら、拡大は断念せざるを得ないというのが、一般的な風潮でした。


 制定案01-215は、区域限界という概念を廃止し、区域内および周辺地域とすることによって、会員増強に際して、候補者の住居または事業所の範囲を拡大し、また、親クラブの承諾なしに、同一区域または周辺部における新クラブ設立を自由に行えるようにする提案です。

 会員増強と拡大を共に容易にしようという提案ですが、もしこの提案が可決されれば、周辺部の定義を巡ってとんでもない拡大解釈が生まれたり、誰も知らないうちに、自分のクラブのテリトリー内に新しいクラブができるという可能性も否定できないでしょう。


 4月21日の夕刻に、飛行機で到着した直後の開会式に引き続くオリエンテーションで、2001年度規定審議会が始まります。翌日は日曜日ですが、朝8時30分より、夜6時まで、間にコーヒー・ブレークと昼食をはさんで実質午前中3時間半、午後3時間半という審議が6日間続き、予定通り行けば金曜日の晩に終了し、翌日朝、帰国するという強行軍です。
 出席チェックも非常に厳しく、特に今回はローテーションを組んだ座席指定になりますので、遅刻や途中退席でもしようなら、誰がいなくなったかすぐわかるので、SAAがホテル中探し回って、連れ戻すという話すら伝わってきています。
 朝と昼は、量ばかり多い恒例のビュッフェ・スタイル、夜は、自腹を切って食べよということですから、今からおいしい店を探しておくつもりです。

 特別に関心が集まっている案件の幾つかは、既に説明いたしましたが、その他同じような提案がひしめき合っているのは、「如何にして例会回数を減らそうか」「如何にしてメーク・アップとなる会合を増やそうか」という提案です。
 前者は、「一ヶ月2回」「一ヶ月1回」とか、理事会の裁量による休会日を現行の年2回を、年3回から年10回まで増やそうというものまで目白押しです。
 後者は、前回の規定審議会で「理事会が認めたクラブの奉仕活動」をメーク・アップとして認めさせた実績から、理事会、委員会は当然として、あらゆる会合をメーク・アップとして認めさせようと、これまた多くの提案が出されています。
 「そんなに例会に出るのが嫌だったら、いっそのこと、ロータリーをお辞めになったら・・」と言う言葉が、思わず口から出そうになります。

 次いで多いのが、一人一業種制度の撤廃乃至は緩和と、入会資格の緩和乃至は拡大です。
 一人一業種制度に就いては既に述べましたので省略いたしますが、会員制度を簡素化することによって、また逆にいろいろな会員制度を設けることによって、2005年までに1,500,000万人という大幅な会員増強を果たすための提案が数多く出されています。
 財団学友、ローターアクター、従業員、夫人、家族、新世代その他ありとあらゆる人を会員にしようという提案が出ていますが、ロータリーがボランティア団体ならばいざ知らず、綱領から見る限り職業奉仕団体であることには間違いありませんから、こういった人たちが会員になった場合、自らの事業の場でどのようにして裁量権を発揮できるのか、大きな疑念を感じます。

 体力勝負の1週間になると思いますが、何とか、私の信じるロータリー理念を守るために頑張りたいと思います。